千葉地方裁判所 平成3年(ワ)314号 判決 1994年1月26日
原告 木原宥史
右訴訟代理人弁護士 高橋勲
同 守川幸男
同 藤野善夫
同 中丸素明
同 高橋高子
同 白井幸男
同 渡会久実
同 後藤裕造
同 小林幸也
被告 エール・フランス・コンパニー ・ナショナル・ デ・トランス・ ポール・ザエリアン
日本における代表者 ベルナール・ラトゥール
被告 ミッシェル・リスパル
同 門山隆一
同 金井浩二
同 井上澄郷
同 加藤隆宏
右六名訴訟代理人弁護士 青山周
同 元木祐司
同 上野正彦
主文
一 被告エール・フランス・コンパニー・ナショナル・デ・トランス・ポール・ザエリアン、同加藤隆宏、同金井浩二、同井上澄郷、同門山隆一は、原告に対し、連帯して、金二三〇万円及びこれに対する被告エール・フランス・コンパニー・ナショナル・デ・トランス・ポール・ザエリアンは昭和六〇年八月一〇日から、被告金井浩二、同井上澄郷、同門山隆一は同月八日から、被告加藤隆宏は同月一四日から、いずれも支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告エール・フランス・コンパニー・ナショナル・デ・トランス・ポール・ザエリアン、同ミッシェル・リスパルは、原告に対し、連帯して、金一〇〇万円及びこれに対する平成五年一月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は被告らの負担とする。
五 この判決は第一、二項に限り仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは、原告に対し、連帯して、金一七〇〇万円及び内金五〇〇万円に対し、被告エール・フランス・コンパニー・ナショナル・デ・トランス・ポール・ザエリアンは昭和六〇年八月一〇日から、被告ミッシェル・リスパルは同月一一日から、被告門山隆一、同金井浩二、及び同井上澄郷は同月八日から、被告加藤隆宏は同月一四日から支払済みまで、内金一二〇〇万円に対し、いずれの被告も平成五年一月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告エール・フランス・コンパニー・ナショナル・デ・トランス・ポール・ザエリアン及び同ミッシェル・リスパルは、原告に対し、連帯して、金五〇〇万円及びこれに対する平成五年一月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
4 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 当事者
(一) 原告
原告は、昭和四八年五月に被告エール・フランス・コンパニー・ナショナル・デ・トランス・ポール・ザエリアン(以下「被告会社」という。)との間で労働契約を締結し、羽田空港支店(当時)旅客課に配属され、同五三年五月、新東京国際空港開設に伴い勤務換えを命ぜられ、以来現在まで新東京国際空港支店(以下「成田空港支店」という。)の旅客部旅客課(以下「旅客課」という。)に所属している。
そして、昭和五六年三月末までは同課において旅客の接遇関係の事務に従事していたが、同年一二月から現在に至るまでは同課において統計作業に従事している。
また、入社と同時にエール・フランス日本人従業員労働組合(以下「組合」という。)に所属し、現在、組合成田支部の組合員である。
(二) 被告
(1) 被告会社
被告会社は、フランス国パリ市に本社を置き、航空運輸業を目的とする国営航空会社である。日本国においては、東京都港区に日本支社を置き、新東京国際空港、大阪国際空港に支店を、名古屋・東京シティー・エァーターミナル等に営業所を設置している。
(2) 被告ミッシェル・リスパル
被告ミッシェル・リスパル(以下「被告リスパル」という。)は、昭和五七年四月一五日から同六一年四月末日まで、成田空港支店における代表者(空港支店長)であった。
(3) 被告加藤隆宏(以下「被告加藤」という。)は、成田空港支店の従業員であり、昭和五九年一〇月八日から同六〇年五月一一日までの期間(以下「本件期間」という。)、右支店旅客課の部長補佐の職にあり、昭和五五、五六年度に組合の中央執行委員を、また、同五七、五八年度に中央執行副委員長を勤めた。
(4) 被告金井浩二(以下「被告金井」という。)は、成田空港支店の従業員であり、本件期間中、右支店旅客課の課長代理の職にあり、昭和五六年度から同五八年度まで組合の成田支部委員長を勤めた。
(5) 被告井上澄郷(以下「被告井上」という。)は、成田空港支店の従業員であり、本件期間中、右支店旅客課の主任の職にあり、昭和五五、五六年度に組合の中央執行委員を、また、昭和五七、五八年度に中央執行委員会書記長を勤め、成田支部に所属していた。
(6) 被告門山隆一(以下「被告門山」という。)は、成田空港支店の従業員であり、本件期間を含め現在まで、右支店の運航搭載課に所属しており、昭和五五、五六年度には組合の中央執行委員を勤め、右組合の成田支部に所属していた。
(以下、被告加藤、同金井、同井上、同門山を合わせて「被告加藤ら四名」という。)
2 本件違法行為に至る背景
(一) 昭和五六年の合理化の経過
被告会社は、昭和五六年三月一六日、経営不振を理由として組合に対し「日本支社再建に関する労使協議事項の提案」と題する書面を提示し、希望退職者の募集等を中心とする計画につき協力を要請した。組合は、同月二二日、臨時組合大会を開催し、その妥結調印を中央執行委員会に一任することを組合員に求め、同提案は賛成一四一、反対二六、保留一二で可決された。
被告会社は、同月二三日、組合との間で、希望退職の募集期間を同月二三日から同二八日、人数は七〇名を募集することの了解を含む内容の協定(以下「第一次協定」という。)を締結した。そして更に、同月三〇日、右募集期間を同月三一日から翌四月二日まで三日間延長するとともに、希望退職者が七〇名に達しない場合には被告会社が指名により勇退勧告を行うが、中央執行委員全員と東京、成田、大阪の各支部長等については右指名対象から外すという内容の協定(以下、「第二次協定」という。)を締結した。
被告会社は、右第一次協定締結以降、管理職を通じて従業員全員に希望退職届を配布し、これを提出するよう要請したり説得したりした(以下「本件合理化」という。)。これにより約六〇名の職員が退職した。
(二) 退職強要の実態
原告は、希望退職者募集が始まった昭和五六年三月二三日、訴外久保田寛夫(以下「訴外久保田」という。)から希望退職に応じるように迫られたのを始めとして、第一次、第二次各協定に基づく各募集期間を通じて管理職や組合幹部から暴行、監禁等を交えて連日にわたり激しく、希望退職届を提出するように強要された。
しかるに、原告は右退職強要に屈せず、希望退職届を提出しなかった。
(三) 希望退職募集期間経過後
(1) 第一次及び第二次希望退職募集期間経過後、指名による勇退勧告は行われなかったものの、右期間経過の翌日である昭和五六年四月三日、原告は、訴外畔柳博年旅客部長(以下「訴外畔柳」という。)から仕事をしなくてもよい旨申し渡されて一切の業務から排除され、同月六日からは旅客課内にある通称セクレタリアの部屋に移され、その状態が約二か月間続いた。
(2) 同年六月九日から、原告は遺失物係に配属されたが、実質的にはほとんど同係の本来的な業務を行わせてもらえず、業務からの排除が続けられ、その状態が約半年間続いた。
しかもこの間、原告は、被告加藤をはじめとして被告金井、同井上及び同門山を含む被告会社職員から連日にわたり様々な暴力行為、いやがらせを受けた。
(3) 同年一二月初めに至り、原告は統計の仕事をするように指示され、これ以降は、昭和五九年一〇月まで、いやがらせや単発的な暴力行為はあったものの、組織的暴力行為は影をひそめていた。
3 本件違法行為
(一) 嫌がらせ、暴力
(1) 昭和五九年一〇月八日(以下「昭和五九年」は省略し、月日のみとする。)午前九時四五分、被告加藤が原告に対し、「会社辞めろ。」などと怒鳴り、続いて被告金井が、プラスチックの箱をわざと原告の顎にぶつけ、さらに原告の耳元で、「気違い。仕事やってるか。返事しろ。」と怒鳴りながら定規で原告の頬をたたき、またタバコの灰を原告の頭の上から落とすなどした。
(2) 一〇月九日午前一〇時五五分ころ、被告加藤が原告に対し、「こら。ここに来い。」と呼びつけ、原告の頭を平手でつついた。
同一一時二〇分ころから二〇分間にわたり、被告加藤、同井上らが原告に、「(会社)辞めろ。」などと怒鳴り、退職を強要した。
(3) 一〇月一二日午後二時から、被告加藤、同金井及び同井上が原告を取り囲み、被告加藤が右拳で原告の鼻面を突き、同一五分ころ、被告金井が原告の机の中の私物の書類等をゴミ箱に捨てた。
(4) 一〇月一三日午後一時三〇分ころから午後二時過ぎまで、被告加藤、同金井及び同井上が、「お前なんか辞めてけ。赤ダニ。」等と退職を強要し、また、机上にゴミを撒き散らした。
同三時一〇分ころ、被告金井が小冊子で原告の頭をはたき、被告加藤が原告の顔面を机に打ちつけようとした。
(5) 一〇月一五日午前一一時ころ、被告井上がタバコの煙を原告の顔に吐きかけた。
同日午後五時一五日ころ、被告金井がタバコの灰を原告の頭上に落としたので、原告が抗議したところ、被告金井は、「バカやろう。」「お前なんかに負けないぞ。ちきしょう、きさまみたいな赤ダニなんかにね。」などと暴言を吐き、被告加藤は原告の頭部を殴打した上、「お前に触れれば、お前、ダニが移るじゃないか、俺に、バカ。」「だから、ダニだっていわれるんだ。」などと暴言を吐いた。
(6) 一〇月一七日午後四時ころ、被告加藤が無線用アンテナで原告の頭をたたいた。
(7) 一〇月一九日午前九時、原告が出勤すると、出勤簿が紛失しており、また、机上にマジックで「鬼、地獄へ行け、死ね」と落書きがされていた。
同日午後二時一五分ころ、被告加藤が指で原告の頭部をはじいた。
同三五分ころ、被告金井が原告に対し、タバコの煙を二度にわたって吹きかけた。
同五五分ころ、被告金井及び同井上が原告に対し、こもごも、「俺にガンをつける気か。」と怒鳴った。
同三時一五分から同四時四五分まで、訴外久保田、被告加藤、同金井及び同井上他数名が、原告に退職を強要した。具体的には、訴外久保田が原告に対し、「君が考え方を変えて、皆に迷惑をかけていることを謝りなさい。」とか「君がいなければ。」などの言を弄し、被告金井が原告に対し、「(会社を)辞めてけ。」と大声で怒鳴りつけたり、食わえタバコを原告の顔面に押しつけようとしたりし、被告井上が原告の靴先を踏みつけるなどの暴行を加えた。
これに対して原告は、訴外久保田に対し、「何とかして下さい。」と頼んだが、同人は制止しないばかりか、「暴力なんか見ていない。」などとシラをきり、被告金井らの原告に対する暴力行為を容認する態度をとった。
(8) 一〇月二〇日午前九時、原告の机の上に統計資料が散乱し、その上に金庫が四個載せてあり、机上には<キ>とスプレーで落書きがされていた。
午後二時五五分ころ、被告井上が、原告に対して物を投げつけた後に殴りかかり、また、被告加藤が原告に暴行を加え、被告金井が、原告の眼鏡をたたき落として顔面を殴る仕草をとったり、二本指で原告の目をつつく動作や膝蹴りをしたり、さらに、五〇センチメートルの距離から輪ゴムを飛ばして原告の耳にあてたりした。
(9) 一〇月二九日午前九時、原告が出社すると、机の引き出しの中身が全部紛失していた。
これについて、原告が直ちに訴外栗本光三郎旅客部長(以下「訴外栗本」という。)に報告し、その後再び自分の机に戻ると、紛失後原告が急遽作り直した統計用紙用のファームが再び紛失していた。そして、原告は再度訴外栗本に報告したが、同人は何ら誠意ある対応をしなかった。
(10) 一〇月三〇日午後一時、原告の机上にゴミが乱雑に置かれていた。同二時二五分ころ、被告金井がいきなり原告の頭を小突いた。
同三時三〇分からの職場ミーティングの直前、被告加藤が原告の机上にピーナッツの殼を捨てたので、原告がこれを写真に撮ると、被告加藤が原告に対して激しく体当たりを加えた。
同午後三時三〇分から午後四時三〇分まで行われた職場ミーティグの際、被告加藤らを先頭にして、ミーティング参加者全員が原告に退職を強要した。
ミーティングの後、被告金井がボールペンの先で原告の背中を七、八回突くなどの暴行を加え、さらに被告加藤が、「本当の暴力をやってやろうか。」とすごむなどした。
(11) 一一月五日午前九時、原告が出勤したところ、原告の机上に「絞死刑」(絞首刑の絵も含む)と落書きがされていたので、原告がこれを写真に撮ると、被告加藤が原告に飛びかかってきた。
原告は、退室すると旅客課事務所から閉め出され、また、同人の机の中に殺虫剤スプレーが撒かれた。
同日午後一時、再度、原告の机の中に殺虫剤スプレーが撒かれていた。
同三時二〇分過ぎ、被告井上が原告の机の上にタバコの灰を落とした。
(12) 一一月六日午後四時過ぎ、組合の職場集会の際、中央執行委員三役をはじめとする約二〇名が、被告加藤及び同金井を先頭にして、集団で原告に退職を強要した。
職場集会終了後、被告金井が原告に物を投げた。また、その後、二〇名位が集団でプラスチックカード数一〇枚を原告に投げつけ、原告を揉みくちゃにした。
(13) 一一月七日午前九時、原告が出勤すると、原告の机の右引き出し二段目にゴミが一杯入れられていた。
(14) 一一月九日午前九時、原告の机上に「お命ちょうだい」「殺すぞ」「皆殺し」と落書きがなされていた。
同日午後三時二〇分から同五〇分まで、被告加藤、同井上及び同金井が、原告に対し退職を強要し、また、被告加藤が原告にビンタを飛ばした。
(15) 一一月一〇日午前一一時三五分から午後一二時三五分まで、被告加藤、同井上及び同金井の三名以外の旅客課職員五名が、原告に退職を強要した。
同日午後五時一〇分ころ、急に旅客課の室内の電灯が全部消され、被告金井及び同井上が原告に対し、体当たりしたり体を揺すったりして暴行を加えた。
(16) 一一月一二日午後一時三〇分から二時二〇分ころまで、訴外近孝宏(以下「訴外近」という。)、被告加藤及び同井上らが原告に対し退職を強要した。
この時、原告は人垣の輪の中に入れられ、被告井上から数回膝蹴りをされたり、脇腹にこぶしを強く当てられたりし、訴外井上晋介(以下「訴外井上(晋)」という。)からも膝蹴りをされた。
(17) 一一月一六日、原告の机上に、いやがらせのために手提げ金庫が置かれており、その下に「一家惨殺」と落書きがなされていた。
訴外栗本はこのことを知りながら何の対応もしなかった。
(18) 一一月一七日午前九時、原告の机の引き出しの中にゴミが入れられており、また、椅子の台座にペーパークリップで作ったピンが立てられていた。
同日午後一時四〇分ころ、被告加藤が原告の机上にタバコの灰を落とした。
原告は訴外栗本に抗議したが、同人は何の対処もしなかった。
(19) 一一月二〇日午前一〇時過ぎ、被告加藤及び同井上が傘の水を原告の机の上に落とし、被告井上が原告の机の上にわざと二度にわたってコーヒーをこぼし、原告の顔面めがけて、五回輪ゴムを飛ばした。
同日午後一時、原告の机の上に「バカ」「生活苦」「木原一家自殺?」と落書きがなされていた。
(20) 一一月二一日午後三時三〇分から同四時一〇分ころまで、訴外藤平健祐空港支店次長(以下「訴外藤平」という。)、同栗本、被告加藤及び同井上らが原告を取り囲み、原告が三分遅刻したことについて、執拗に「謝れ。」と強要し、この間、被告井上が原告の右腕、肩を小突き、足蹴りするといった暴行を加えた。
(21) 一一月二四日午後一時三〇分ころ、被告加藤及び同井上が、原告に対し、「エール・フランスの山口さんを守る会」のメンバーがまいたビラの内容に文句をつけ、同一時五〇分ころ、被告井上がいきなり原告の顔面にビンタをし、額に手を押し付け、原告の後頭部を書類棚に強く当て、被告加藤が原告の袖や襟首をつかんで振り回した。
同日午後四時ころ、被告井上が原告の首筋に何回も空手チョップをした。
(22) 一一月二六日午前九時、原告の椅子に針金が二本立っていた。
同午後二時三〇分から同三時一〇分まで、被告金井が原告の顔面に約二〇回ビンタをし、被告門山が原告の後ろから大腿部を約二〇回膝蹴りし、さらに、ゴミ入れバケツを原告の頭から被せようとし、その際、「(会社を)辞めてけ。」と怒鳴った。
(23) 一一月二七日午前九時、原告の机の中にコーヒーを湿らせた新聞紙が詰め込まれていた。
同一〇時三〇分ころ、被告加藤及び同井上ら数名が、原告に対し、合わせてビンタを約一〇回張った。
同日午後一時、原告の机上に「赤い宗教に凝り過ぎ、懲戒免職」と落書きがなされていた。
同三時四〇分から約四〇分間、被告加藤及び同井上が先頭に立って、約二〇名が原告を取り囲み、被告井上が原告の顔面にビンタを数回張った。
(24) 一一月二八日午後二時から二時間にわたり、被告加藤、同井上及び同金井が原告に退職を強要し、ビンタを数回張った。
同四時ころ、被告加藤がタバコの吸殼の入った灰皿の中身を原告の顔面に投げ捨て、これを被告金井が原告に、「片付けろ。」と怒鳴った。
(25) 一二月三日午後一時二〇分ころ、被告井上が原告の机上にタバコの灰を落とし、統計資料を丸めるいやがらせをした。
(26) 一二月五日午後五時から同四五分ころまで、被告加藤が原告の左側頭部を机に強く押しつけようとし、被告井上が、原告のネクタイを引っ張ったり原告をボードに押しつけたりし、さらに被告加藤が灰皿の中身を原告に投げ捨て、「お前が(会社に)いるからこういうことが続くんだ。」とすごみ、暴力、脅迫を加えて原告に対し退職を強要した。
この退職強要には途中から訴外栗本も加わった。
(27) 一二月七日午後二時ころ、被告加藤がいきなり原告の襟首をつかみ上げ、原告の後頭部を三回位鉄製ファイル棚に強く打ちつけた。
同四時ころ、被告加藤が原告に対し、回し蹴りを五、六回、ビンタを五、六回加え、灰皿の中身を同人の顔面に投げつけ、さらにゴミ入れを頭に被せた。その結果、原告は全治二週間を要する左大腿部打撲血腫の傷害を負った。
原告は灰をかけられた状態の顔を訴外常世田政幸(以下「訴外常世田」という。)に確認させた。また、同日午後五時過ぎ、訴外栗本に報告し訴えたが、同人は、「そんなことあるのか。」と言うのみで全く不誠実な対応に終わった。
(28) 一二月八日午後一二時一五分、被告井上が、出勤してきた原告に対して、「お前なんか帰れ。」などと怒鳴った。
同一時一五分、被告加藤は、拳で原告の顎を殴り、さらに、原告に膝蹴りを加えた,
原告は、訴外藤平に、前日の暴行により被った全治二週間の怪我の診断書を渡すとともに右暴行についても報告、抗議した。しかるに同人は、「診断書は預かっておく。後で加藤君から事情を聞く。」と言うだけでまともに取り上げようとしなかった。
同日午後二時二〇分から同三時すぎまでの間、原告は被告井上から蹴り上げられ、被告加藤からは手拳で殴打され、さらに、顔面につばを吐きかけられるといった集団的暴行を受けた。
(29) 一二月一〇日午前一〇時、原告が執務中、被告加藤がいきなり無言で原告の右後ろから原告の襟首をつかみ、そのまま強引に引っ張った。この時、原告は左足を机の角にぶつけた。原告は、「何するんですか。やめてください。」と叫んだが、被告加藤は、原告を遺失物係の机の上に仰向けに押し倒し、数分押えつける等の暴行を加えた。
その結果、原告は左膝に全治一週間の打撲、内出血という傷害を負った。
原告は、右内容の診断書のコピーを被告リスパル、訴外藤平及び同本間空港支店次長(以下「訴外本間」という。)に見せて、暴力をなくすよう要請し、訴外栗本にも同じように要請した。しかるに訴外藤平らは何らの調査も処置も行わなかった。
同日午後二時四〇分ころ、被告井上が、原告のネクタイとシャツのボタンを無理矢理はずし、「裸で外を歩いて来い。」と怒った。
(30) 一二月一一日午前九時、被告加藤が原告の顎にアッパーカットを加えた。そのはずみで原告の眼鏡が飛んで破損した。
同日一〇時五〇分ころ、旅客課員の取り囲む中で、被告加藤が原告の顎の下に手をかけ、後頭部をフライトインフォメーションボードに強く打ちつけたため、原告は衝撃で気を失いかけた。
これにつき原告は訴外久保田に抗議したが、同人はまともに調査しなかった。
同日午後三時五〇分ころ、原告が執務中、被告井上が無言で原告に近付き、突然、原告の上着とシャツにコーヒーをかけた。
原告はこの時、コーヒーで濡れたままの服装で訴外久保田に抗議したが、同人は十分な対応をとらなかった。
同五時一五分ころ、被告井上が、再度、原告の股間目がけてコーヒーをかけた。原告はこれについても訴外久保田に抗議したが、同人は取り合おうとしなかった。
(31) 一二月一二日午後一時五〇分ころ、被告井上が原告の股間に冷えたコーヒをかけたので、これについて、原告が訴外藤平に抗議したが同人は取り合わなかった。
同日午後二時過ぎ、被告井上が原告に対し、灰皿に入ったタバコの吸いカスと灰をいきなり肩口からかけたので、これについても原告は訴外藤平に抗議したが、同人は取り合わなかった。また、被告井上は、つま先で原告の右足を蹴るという暴行も加えた。
同午後二時四五分ころ、被告加藤が原告に対し、いきなり顔面を殴打し、さらに難を逃れようとする原告を追い回し、襟首をつかもうとした。また、これを見ていた訴外井上(晋)が原告に対し、「この野郎。」などと叫びながら飛びかかり、左手で襟を強くつかんで書類棚に押さえつけ、右手で二〇回以上ビンタを加えた。これにより原告は気を失いかけた。そして、これについても原告は訴外藤平に抗議したが、同人は取り合わなかった。
右暴行の結果、原告は全治二週間を要する右大腿部・頚部・左手首・右上肢打撲傷の傷害を負った。
(32) 一二月一四日午前九時五分ころ、原告が、同月一二日の暴行について訴外栗本に報告し、暴力を止めさせるように求めたところ、同人はそれを原告のでっち上げであるとして取り合わなかった。
同日午後二時一五分ころ、被告加藤は、原告に対し、同一二日の事件について誰に口外したか問い詰め、その際、原告の顎を拳で一〇数発殴った。これにより、原告は口腔内裂創を伴う両頬部打撲傷の傷害を負った。
右暴行について原告は、まず訴外藤平に診断書のコピーを見せながら報告したが、同人は訴外栗本に報告するように言うのみで自らは何の対処もしなかった。そこで原告は次に訴外栗本に報告したが、同人も十分な対処をしなかった。
(33) 一二月一五日午後一時過ぎ、被告井上が、突然、執務中の原告の股間めがけてコーヒーをかけた。これについて原告は、訴外本間に抗議したが、同人は不誠実な対応しかとらなかった。被告井上は、訴外本間のこの態度を見て、その後しばらくして、再度、冷たいコーヒーを原告のズボンにかけた。これについても原告は、訴外栗本に抗議したが、同人は原告の訴えを真摯に取り上げなかった。
そこで、原告は、被告井上の右行為に対して同人に抗議し、同人との間で押し問答を続けていたところ、同二時過ぎ、被告門山が旅客課に現れた。そして、「お前なんかやめてけ。」と暴言を吐きながら、逃げる原告の上着の襟をつかんで二、三回腰投げをかけようとし、最後に二人一緒に崩れ倒れた。原告が起き上がって逃げようとすると、被告門山は原告をつかまえて、原告の上着の襟首を両手で持ち、強く締めた上で腰投げをかけた。その際、原告は気を失い、床面又は机等に後頭部を強く打った。この結果、原告は、頭部外傷(後頭部打撲、皮下出血)頚髄損傷症、これに伴う右上肢、口角周囲のしびれ感、知覚異常、頭痛等の各傷害を受けた。そして、空港クリニックで診察を受けた後、成田赤十字病院に入院した。
原告は、その後同病院で治療を受け、翌昭和六〇年一月一五日まで入院し、自宅療養の後、同月二八日に出社した。
(34) 昭和六〇年一月二八日(以下「昭和六〇年」は省略し、月日のみとする。)、訴外山添照晴運行課職員(以下「訴外山添」という。)が、頚椎カラーを着用して出社した原告に対し、「なんだそれはみっともない。そんなの着けてくるなら会社に来るな。」と怒鳴った。
(35) 一月二九日午後五時から同一五分まで、整備課の訴外石井陳郎が、仕事中の原告の頭上の蛍光灯をつけたり消したりした。
同課の訴外山本孝志が原告の後ろに立ってタバコの煙を吹きつけた。
同課の訴外田口元古が原告の後ろに椅子を持ってきて、必要もないのにわざと居座るなどのいやがらせをした。
(36) 二月一日午後一時四〇分、旅客課室内で整備課の訴外山本孝志が原告に対しタバコの煙を吹きかけた。
同日、原告の机の中から統計資料のうち昭和六〇年度の出発便に関する資料が紛失していたので訴外栗本に抗議したが、同人は、「探せ。」というだけで取り合わなかった。
(37) 二月二日午後二時、訴外山添が、仕事中の原告の脇に立ち、「デッチ上げに抗議する。」と怒鳴った。
(38) 二月五日、原告の机上にノリがベトベトに塗られており、原告の椅子が靴底で汚されていた。
(39) 二月九日午後〇時、訴外高橋明が、食事に行こうとする原告に対し頚椎カラーを指して、「そんなの付けてくるな。」と雑言を浴びせた。
同午後二時三分、訴外山添が、仕事中の原告の脇に立ち、「少しは真面目に仕事をやっているか。」「少しは反省したか。」「そんなお前、みせつけのかっこうしてて、それは真面目な姿と言えないな。ましてデッチ上げしてみんなに迷惑かけて、職場の中でそんな事をしながら、自分が真面目にみんなと一緒に仕事をしたいなどと…」「少し反省しなさい。」と頚椎カラーをしながら静かに真面目に仕事をしている原告に毒づいていった。
原告がトイレから帰ってくると、訴外近が、「トイレが近すぎるぞ。腎臓でも悪いんじゃないか。」といやみを言った。
(40) 二月一三日午後二時二六分、原告が被告金井に、同日午前中病院に行って病欠したことを報告しようとしたところ、同人は、「もっと上の者に言え。病院へは自分の休みに行け。気違い。」と怒鳴った。
同午後三時二〇分、訴外山添が、原告の机の脇に立ち、「真面目に仕事をする気になったか。心を改めたか。」などと言った。
同午後三時二五分、原告が被告加藤に午前中病欠を取ったことを報告に行き、席に戻ると、机上の資料の一部が消しゴムで消されていた。
(41) 二月一五日午前一〇時六分、電話が三本同時に入った時、原告が訴外近に「出ましょうか。」と聞いてみると、同人は首を横に振って出なくてよいと合図した。
同日午後二時五〇分ころ、被告リスパルが、原告の脇に立って、「どけ。」と言いながら、原告の机の引き出しを引き、中身を点検するなどのいやがらせを行った。その際、被告金井もいやがらせの発言をした。
(42) 二月二二日午前一〇時、電話が二本同時に入ったので、原告が訴外近に「出ましょうか。」と聞いてみると、訴外近は首を横に振って出なくてよいと合図し、同三九分、同人から、電話に出ることを禁止され、統計の仕事にのみ専念するように強く指示された。
同日午後一時、原告が旅客課内の掲示板を見ていると、訴外高橋明が原告に、「身の振り方を考えろ。」と聞こえよがしに言った。
同日午後三時二四分、原告が台付(約五〇センチメートルの台)タイプライターを使用している右高橋と向かい合わせにタイプを始めようとすると、同人は、「むこう向いてやってくれ、むこう向いてやれ。」と立ち上がり、自分の台付タイプライターを原告のタイプライターめがけて突き放すように移動させた。
(43) 二月二五日午前八時五八分、原告の椅子の座面が靴底で白く汚されていた。
(44) 三月六日午前一〇時三〇分ころ、原告が申立てた被告加藤ら四名による暴力行為等禁止仮処分事件の審尋期日を出勤扱いにしてほしい旨を訴外栗本に申し出たが、被告加藤及び同井上らは出勤扱いとされたにもかかわらず、原告には認められなかった。
同日付けでエールフランス日本支社総務本部より原告の右仮処分事件に関する「人事だより」が全職員に向けて発行され、この中で、「今回の木原君の訴えがすべて不実虚構、事実無根であり、……極めて遺憾であります。会社は重大な決意をもってこれに臨んでいます。」と職員に緊張をもたらす見解が明らかにされた。
(45) 三月八日午後二時過ぎ、被告金井が原告に聞こえよがしに、「会社の名誉、信用を著しく傷つけ、旅客部の職場秩序を錯乱しようと」と発言した。
(46) 三月九日午後五時三〇分、被告井上が原告に対して話しかけてきたので、原告も一言二言話して帰ろうとすると、訴外高橋明が突然「こら、答えろ。」と大声で怒鳴った。
(47) 三月一一日午後五時三二分、統計の仕事を終えて帰ろうとしている原告に対し、訴外高橋明が、「木原、栗本さんに報告していけ。」といいがかりをつけた。原告が、訴外栗本に報告するよう指示されたことはない旨を高橋に伝えて退室しようとすると、背後から訴外井上(晋)らが原告に対し、「来なくていい。」「出てくんな、もう。」と言った。
(48) 三月一八日午前一一時五五分、被告リスパルが仕事中の原告の右横に立ったので、原告がフランス語で「こんにちわ。」と挨拶をしたが、被告リスパルは原告を睨むだけで返事をしなかった。
(49) 三月二〇日午前九時一〇分、原告の机の引き出しの中がいじられ、統計資料の一部が別の引き出しに移動されていたり、書類の留め金が折られており、原告はこれを訴外栗本に抗議した。
(50) 三月二二日、書類「MEMO SOL 85 020185 DKSO」が旅客課の各職員用出勤簿入れに配布されたが、原告には配布されなかった。
(51) 三月二五日午前一一時三六分、被告リスパルが原告の席の右脇に立ったので、原告がフランス語で「こんにちわ。」と挨拶をしたが、被告リスパルはニャッと笑うだけで返事をしなかった。
(52) 三月二六日午後三時五〇分、訴外高橋明が、台付タイプライターを原告の方に突き放すように移動させながら立ち上がった。
(53) 四月五日午後二時五五分、被告金井が、手に持った手提げ金庫をわざと原告が使用中のタイプライターにぶつけていった。
(54) 四月六日午後一時四五分、原告が午前中成田赤十字病院で脳波テストを受けてきたことを被告加藤に報告すると、同人は「やっぱり、頭がおかしいと言われたか。」といやみを言った。
(55) 四月二七日午後二時五〇分、原告が従業員割引切符申請書に必要金額を添えて東京と大阪間の切符の発行を被告加藤に申し出たのに対し、同人は、「旅行当日の休暇を申請してからにしろ。」「今は切符がない。」と切符の発行を断った。
(56) 五月四日午前八時五三分、原告の椅子の座面が汚され、キャスターの一部が破損しているものと交換されていた。
(57) 五月七日午前九時、原告の机が断りもなく作業机と交換され、机の上に、手提げ金庫が四個積まれ、不要になったデスクマットが丸めて放り出されてあり、また、椅子も、座面が汚れ、キャスターの一部が破損しているものと交換されていた。
(58) 五月八日午前九時、原告の机が再び別の机と交換され、統計資料や書類等が机上に放り出されており、筆記用具等がケースごと紛失していた。
(59) 五月一一日午後三時三〇分、被告加藤は原告を「木原、木原、木原」と呼び捨てにし、「整備課からロッカーを旅客課に持ってこい。」と指示した。なお、同ロッカーは新入社員三名には与えられたが原告には与えられなかった。
(二) 仕事差別
原告は、昭和五六年三月以降、それまで従事していた接遇関係の仕事を配置換えになり、同年一二月初めから現在に至るまで(ただし、本件違法行為としては、本件期間中のものに限定して主張する。)、上司である被告加藤の指示のもと、統計作業に従事させられてきた(以下「仕事差別」という。)。
右行為は次の二点で違法である。
(1) 配転に合理的理由がないこと
右配転は、原告の希望、要求を無視するものであり、かつ、業務上の必要性や人選の合理性を欠くものである、
(2) 統計作業が役に立たないものであること
右統計作業のうち、原告が本件期間中に行わされていたノーショー率(予約したお客が取消をしないで当日無断で来ない比率)に関するそれは、当時、原告が被告加藤に指示されていた方法ではノーショー率を算出することができないばかりか、統計作業自体、被告会社にとって役に立たないものであり、原告を退職に追い込むために行われたものであった。
(三) 被告会社及び同リスパルの関与
右(一)(二)は、いずれも被告会社自身の意思に基づいて行われたものであり、また、被告リスパルも成田空港支店職員をして積極的に右各行為を行わせていた。
仮にそうでないとしても、原告は、昭和五九年夏以降、被告加藤ら四名に暴力あるいはいやがらせ(以下「暴力行為等」という。)をされるたびに、当時の日本における代表者であった訴外ジャン・クロード・ボンムガルテン(以下「訴外日本支社長」という。)、被告リスパル、訴外久保田、同藤平及び同栗本ら管理職に対し、繰り返し抗議、要請等の文書を送付したり、あるいは口頭で抗議、要請し続けたりしたので、被告会社及び同リスパルは、原告が職場内において被告加藤ら四名から暴力行為等を受けている事実及び仕事差別が行われている事実を知りまたは知ることができた。それにもかかわらず、被告会社及び同リスパルはこれを敢えて放置し、何の方策もとらなかった。
4 責任
(一) 被告加藤ら四名
被告加藤ら四名は、原告を退職に追い込むことを目的として、それぞれ共謀、役割分担して、継続的に前記3(一)の暴力行為等を行い、もって、原告の快適で安全に就労する権利、生命、身体の安全、名誉権等の人格的利益を侵害した。
したがって、右四名全員につき、その一連の暴力行為等につき全体として一個の継続的不法行為が成立し、民法七〇九条及び同七一九条に基づいて損害賠償責任を負う。
(二) 被告リスパル
(1) 暴力行為等に対して
被告リスパルは、前記3(三)のとおり、本件期間中、成田空港支店長という立場から、被告加藤ら四名をして原告に対して暴力行為等を行わせた。
仮にそうでないとしても、被告加藤ら四名の原告に対する暴力行為等を知っていたか、あるいは少なくともこれを知り得る立場にあったのであるから、同支店に働く職員に対し、包括的な指揮、命令、監督権を有しているという立場上、訴外日本支社長や被告会社の本社に対して違法行為をやめさせるように上申したり、成田空港支店に勤務する従業員に対して文書や口頭で注意、指示を与えるなどして本件違法行為を防止すべき義務を負っていた。しかるに被告リスパルは、前記3(三)のとおり、この義務を尽くさず、敢えてこれを黙認、放置した。
また、自ら前記3(一)(41)、(48)、(51)の各いやがらせ行為を行った。
したがって、被告リスパルは、これらにつき民法七〇九条に基づいて損害賠償責任を負う。
(2) 仕事差別に対して
被告リスパルは、成田空港支店長として、原告に対し、前記3(三)のとおり、仕事差別をした。
仮にそうでないとしても、仕事差別の事実を知っていたか、あるいは少なくとも知り得たのであるから、立場上これを止めさせるべき義務を負っていたが、前記3(三)のとおり、何の方策もとらなかった。これは原告の勤労の権利、働く喜びや誇り及び人間としての尊厳を傷つける違法行為であるから、民法七〇九条に基づいて損害賠償責任を負う。
(三) 被告会社
(1) 暴力行為等に対して
合社は、労働契約上の信義則に基づき、労働者が快適で安全に労働することができるよう、その就労の権利、生命、身体及び名誉等の人格的利益を保護すべき万全の注意義務を負い、右人格的利益が現に侵害され続け、あるいは侵害される恐れのあるときは、これを防止すべき万全の注意義務を負う。また、会社は原告との間の労働契約関係に基づき、条理上その付随的義務として、また、社会通念上の義務として、労働者が安心して職務に従事できるよう職場環境を良好に保つべき職場環境調整義務がある。
しかるに、被告会社は、前記3(三)のとおり、被告リスパル及び同加藤ら四名を含む組合の一部幹部などを通じて就業期間中に、かつ、就業の場所において、前記3(一)のような執拗な暴力行為等を長期にわたり組織的、系統的、継続的に行わせ、あるいは、少なくともこれを知りまたは知り得たにもかかわらず長期間放置した。
右被告会社の行為(不作為も含めて)は、原告の就労の権利、生命、身体及び名誉等の人格的利益を著しく侵害し、前記各義務に違反する重大な違法行為である。
また、被告加藤ら四名を含めて原告に暴力行為等を行った被告会社職員には、民法七〇九条の不法行為が成立し、かつ、右暴力行為等はいずれも就業時間中、かつ就業場所において行われたものである。
したがって、被告会社は、原告に対し、民法四一五条、または同七〇九条あるいは同七一五条一項に基づいて損害賠償責任を負う。
(2) 仕事差別に対して
被告会社は、会社自体として、原告に対し前記3(二)の仕事差別を行い、また、被告会社の被用者であった被告リスパル及び加藤は、前記3(二)(三)のとおり、支店長または原告の上司としての立場から仕事差別を行い、もって、原告の勤労の権利、働く喜びや誇り及び人間としての尊厳を傷つけた。
したがって、被告会社は、民法四一五条、または同七〇九条あるいは同七一五条一項に基づいて損害賠償責任を負う。
(四) 各被告間相互の責任関係
(1) 被告加藤ら四名相互の関係
被告加藤ら四名相互間には、原告を退職させることに向けて継続的に暴行や嫌がらせ等の人権侵害行為を協力して行うという、相互の利用補充の意思が認められるから、主観的関連共同性があるといえる。
また、被告加藤ら四名の個々の具体的行為は、お互いに補完し合って、全体として原告に対する退職強要の効果を発生させるに足る程度の関連性が認められるから、客観的関連共同性があるといえる。
したがって、被告加藤ら四名には民法七一九条の共同不法行為が成立し、相互に連帯責任を負う。
(2) 被告会社とその余の被告との関係
被告会社の不法行為責任とその余の被告の不法行為責任との関係は、民法七一九条一項の共同不法行為であり連帯責任である。
被告会社の債務不履行責任とその余の被告の不法行為責任との関係は、民法七一九条一項類推により連帯責任である。
(3) 結局、暴力行為等につき(弁護士費用も含めて)各被告が連帯して責任を負い、仕事差別につき被告会社、同リスパル及び同加藤が連帯して責任を負う(ただし、仕事差別については、被告加藤の責任は追及しない。)。
5 損害
(一) 慰謝料
原告が被告らの本件期間中における不法行為により被った精神的、肉体的苦痛は筆舌に尽くしがたい。
その額は、被侵害利益の重大性と結果の重大性、侵害行為の態様の悪質性、被告らの不当抗争と無反省を考慮すると、被告会社と被告リスパルについては少なくとも金二〇〇〇万円(うち、暴力行為等に対するものとして金一五〇〇万円、仕事差別に対するものとして金五〇〇万円)を、その余の被告については金一五〇〇万円を各下らない。
(二) 弁護士費用
弁護士費用は、右慰謝料請求金額の一割の金二〇〇万円が、本件不法行為と相当因果関係がある。
6 よって、原告は、被告らに対し、右暴力行為等につき債務不履行または不法行為に基づき、弁護士費用も含めて、連帯して、合計金一七〇〇万円及び内金五〇〇万円に対する、被告会社は訴状送達の日の翌日である昭和六〇年八月一〇日から、被告リスパルは同じく同月一一日から、被告金井、同井上、同門山は同じく同月八日から、被告加藤は同じく同月一四日から支払済みまで、内金一二〇〇万円に対する本件口頭弁論終結の日の翌日である平成五年一月二八日から支払済みまで、いずれも民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うこと、並びに被告会社及び被告リスパルに対し、仕事差別につき債務不履行または不法行為に基づき、連帯して、金五〇〇万円及びこれに対する本件口頭弁論終結の日の翌日である平成五年一月二八日から支払済みまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うことを各求める。
二 請求原因に対する認否及び被告らの反論
1(一) 請求原因1(一)のうち、原告が組合に加入した時期は不知、その余は認める。
(二) 同1(二)は認める。
ただし、被告金井は昭和五五年度の途中から成田支部委員長に就任した。
2(一) 請求原因2(一)は認める。
(二) 請求原因2(二)のうち、原告が退職届を提出しなかったことは認め、その余は否認する。
旅客課において、再建の必要性を再認識した上で、個々の組合員がどういう形で再建に協力できるかの話し合いがなされた際、原告は一人一貫して、「再建の必要性はない。」「経営の危機なんてうそだ。」「私は騙されない。」「だから僕は希望退職に応じない。」の一点張りであった。成田支部員は、何度も原告にもう一度組合報を読んで欲しい。そして分かりにくいところがあったら質問して欲しいと言ったが、原告は、「とにかく自分は再建の必要性は認めない。余計な世話をやくな。」と答えるだけであった。このように、成田支部から選出された組合執行委員が支部員である原告と話し合おうとしても全く話し合いができない態度、言動であった。
(三)(1) 請求原因2(三)(1)のうち、指名による勇退勧告が行われなかったこと、原告が四月六日から旅客課内にあるセクレタリアの部屋に移されたことは認め、その余は否認する。
原告をセクレタリアの部屋に移したのは、第一に、同部屋の机が空いていたこと、第二に、原告の勤務態度が、希望退職が始まった昭和五六年三月ころから特に悪くなり、業務を妨害するような言動が目立つようになってきたためである。また、そのため、訴外畔柳が原告に対し、同部屋で静かに落ち着いて、再建にどのように協力できるかを考えてレポートにまとめるように指示したのである。
(2) 同2(三)(2)のうち、原告が六月九日から遺失物係に配属されたことは認め、その余は否認する。
(3) 同2(三)(3)のうち、一二月初めに、原告が統計の仕事をするように指示されたことは認め、その余は否認する。
3 請求原因3(一)について
(1) 同(1)は否認する。
(2) 同(2)は否認する。
(3) 同(3)は否認する。
(4) 同(4)は否認する。
(5) 同(5)のうち、被告金井が原告に対し、「ふざけるな。気違い。このやろう。バカやろう。赤ダニ。」と言ったこと、被告加藤が原告に対し「バカ。」と言ったことは認め、その余は否認する。
これは、原告が被告金井に向かって突然、「頭上にタバコの灰を落とした。」といいがかりをつけたので、それに対して抗議したものであり、原告のデッチ上げとふてぶてしい態度に対する被告金井の心情を考慮すればやむを得ない発言であって、侮辱的なものとはいえない。
(6) 同(6)は否認する。
(7) 同(7)のうち、机上に落書きがされていたことは不知、その余は否認する。
被告金井が原告にタバコを押しつけたことはない。訴外久保田が旅客課事務所に現れた時、原告が、「暴力だ。」と騒ぎ出し、他の職員が暴力行為などなかったことを訴外久保田に説明した際、被告金井がたまたま自分のタバコに火をつけたら、原告が突然、「金井が原告にタバコの火を押しつけようとしているではないか。」と言い出した。そのため訴外久保田が呆れて、原告に皆と協調して仕事をするようにとたしなめたのである。
(8) 同(8)のうち、原告の机の上に統計資料が散乱し、金庫が四個載せてあったとの点、机上に<キ>と書かれていたとの点は不知、その余は否認する。
この日は土曜日であり、被告金井は運航搭載課で業務についており、旅客課事務所に行っていない。したがって同人が原告に暴力を振るうことはあり得ない。
また、この日の午後二時五五分ころは、旅客課事務所内は繁忙を極めており、旅客課職員全員が自分の仕事に追われていたので、原告に関わっている暇はなかった。
また、原告がこの日の出来事であると主張する録音テープに記録されたやりとりについても、被告加藤、同金井及び同井上は原告に非難を浴びせているのではなく、次から次へと難癖をつけ職場を混乱させようとする原告に抗議しているのである。
(9) 同(9)のうち、原告の机の引き出しの中身が全部紛失していたとの点は不知、その余は否認する。
(10) 同(10)のうち、午後三時三〇分ころから同四時三〇分ころまで職場ミーティングが行われたことは認め、その余は否認する。
この日の午後三時三〇分から、旅客課において、出勤していた職員全員が集まって職場ミーティングを行っており、被告加藤が原告主張のような行為をすることはあり得ない。職場ミーティングを始めようとしたところ、原告がカメラを手にして自分の机の上を写そうとしていたので、被告加藤が職場にカメラを持ち込まないようにと注意したことがあるだけである。
(11) 同(11)のうち、原告の机上に落書きがあったことは認め、その文言及び、二度にわたり原告の机の中にスプレーが撒かれていたことは不知、その余は否認する。
被告井上は、この日パリから帰国後、旅客課事務所に立ち寄らずに帰宅した。
(12) 同(12)のうち、午後三時三〇分ころから同四時三〇分ころまで、組合成田支部の職場集会が行われたことは認め、その余は否認する。
原告が、右集会の時、ポケットテープレコーダーを制服の中に隠し持っていたため、組合員が反感を持ち、組合委員長の訴外田中潔が、原告にテープレコーダーを出すように言っただけである。
(13) 同(13)は不知。
(14) 同(14)のうち、原告の机上に落書きがあったことは不知、その余は否認する。
被告加藤は、この日、原告に仕事のやり方、取り組み方について話し、さらに原告から家庭の事情等を聞いただけである。
(15) 同(15)は否認する。
旅客課事務所には電灯のスイッチが六か所に散らばっており、停電でもない限り一斉に電気が消えることはない。仮に被告加藤の机のある部屋の電気が消えたとしても人の顔を識別できなくなるほど暗くなることはない。
また、この日、被告金井は旅客課事務所に行っていない。
(16) 同(16)は否認する。
この時間帯は頻繁に電話がかかる時間帯であるから、旅客課職員が業務を無視して原告主張のようなことができるはずがない。
(17) 同(17)のうち、原告の机上に落書きがされていたとの点は不知、その余は否認する。
(18) 同(18)のうち、原告の机の引き出しの中にゴミが入れられていたこと及び椅子の台座にピンが立てられていたとの点は不知、その余は否認する。
原告は、他人がタバコを吸うと、「暴力だ。」「煙をふきかけるな。」と騒ぎ出すなど、タバコに対する被害忘想が特に強いので、この時も妄想があったと思われる。
(19) 同(19)のうち、原告の机上に落書きがしてあったとの点は不知、その余は否認する。
(20) 同(20)は否認する。
(21) 同(21)は否認する。
「エール・フランス山口さんを守る会」と称するビラの中に原告が職場で差別やいやがらせ、暴力を受けていると書かれていたので、被告井上が原告に対して、事実無根のことを書いたりして会社の信用を傷つけたりするのはよせと注意したものである。被告加藤も同様に注意しただけである。
(22) 同(22)のうち、原告の椅子に針金が立てられていたとの点は不知、その余は否認する。
二〇回もビンタをされたというのに、されるままにしていたというのはあり得ないことであるし、原告がかけていた眼鏡が飛ばなかったということも不自然である。
原告が暴行を受けたという時間には、被告門山は旅客課事務所にいなかった。
(23) 同(23)のうち、原告の机の中にコーヒーを湿らせた新聞紙が詰め込まれていたとの点、原告の机の上に落書きがなされていたとの点は不知、その余は否認する。
(24) 同(24)は否認する。
(25) 同(25)は否認する。
(26) 同(26)は否認する。
被告井上は、原告が事務所内をウロウロしていたのでしっかり仕事をするように注意しただけである。
(27) 同(27)は否認する。
(28) 同(28)は否認する。
(29) 同(29)は否認する。
(30) 同(30)は否認する。
原告は井上にコーヒーをかけられたと訴外久保田に抗議したが床にそのような形跡がなかったので、訴外久保田は原告に対して、「もうサル芝居なんかやるな。」と注意したのである。
(31) 同(31)は否認する。
訴外藤平は、同日午後三時ころ、旅客課事務所に来て、原告が言う暴力があったかどうかを確めたが、職員一同が何もなかったことを説明したため、訴外藤平は原告を注意したのである。
(32) 同(32)は否認する。
(33) 同(33)のうち、被告門山が、午後一時五〇分ころ、旅客課事務所に現れたこと、同日、原告が空港クリニックで受診した後、成田赤十字病院に入院し、翌六〇年一月一五日まで入院していたこと、原告が同月二八日から出社したことは認め、その余は否認する。
この日の事実経過は以下のとおりである。
被告井上は、原告がぼんりしていたので、もっとしっかり仕事をするように注意したところ、原告は、「よけいな世話をやくな。お前こそ自分の仕事をしろ。」と反発して事務所を飛び出し、その後訴外本間を伴って戻り、同人に、被告井上からコーヒーをかけられたと抗議した。しかしながら、その場ですぐ、被告井上が原告にコーヒーをかけた事実などないことが確認されたので、訴外本間は原告にいい加減なことを言わずに仕事をするようにと注意した。
その後、被告井上が原告の机の傍らで、同人に対して、なぜ嘘を言うのかと注意すると、原告は、「よけいなことを言うな。」とか、「お前は自分の仕事をしていればいいんだ。」などと大声で言い出した。その時の原告の体勢は、自分の机の椅子(回転式キャスター式)を机の正面から右側に約四〇ないし五〇センチメートル程ずらせて、椅子の背もたれに臀部を乗せかけるように立ち、被告井上と一メートル位間を隔てて対峙するような格好であった。
ちょうどこの時、被告門山が旅客課事務所正面入口から入室して来て、原告の後方二メートル位の位置から同人に向かい、「なんだその口の聞きようは。」と言うと、原告は自分の後方にいた被告門山の方を急に振り返ろうとしたため、その瞬間、臀部が椅子の背からはずれる格好で体がぐらつき、よろめくようにして椅子の横の床にゆっくり倒れた。
(34) 同(34)のうち、訴外山添が、頚椎カラーを着用して出社した原告に対し旅客課事務所内において、「そんなみっともないかっこうをしなければならないのなら休んだら。」という趣旨の話をしたことは認め、その余は否認する。
訴外山添は、原告が頚椎カラーをし、その上にネクタイを窮屈そうにして、いやいやながらすると言わんばかりに統計の仕事をしているのを見て、そんな格好で仕事をしなければならないほど体の調子が悪いのであれば、もう少しよくなるまで休めるように訴外栗本に話をしてみたらどうかと発言したに過ぎない。
(35) 同(35)は否認する。
訴外石井陳郎、同山本孝志、同田口元古らは、この日旅客課事務所に行っていない。
(36) 同(36)のうち、原告が机の中から資料が紛失している旨を訴外栗本に申し出たので、同人が原告に対してよく調べるように指導したことは認め、その余は否認する。
(37) 同(37)のうち、訴外山添が旅客課に来たことは認め、その余は否認する。
(38) 同(38)は不知。
(39) 同(39)は訴外近が原告に対し、「しばしば手洗いに行くようだが腎臓でも悪いのではないか。」と聞いたことは認め、その余は否認する。
訴外近は、原告があまりに頻繁に離席して仕事をしなかったため、原告に対して真面目に仕事をするように注意したところ、同人は、「トイレだから仕方がないだろう。」と食ってかかるような口のきき方をしたので、「それなら腎臓でも悪いのではないか。」と言ったのである。
(40) 同(40)のうち、午後二時三〇分ころ、原告が被告金井に、同日午前中病院に行って病欠した旨申し出たので、被告金井が訴外栗本に申し出るよう指示したこと、午後三時三〇分ころ、訴外山添が原告の近くまで行った際、一生懸命仕事するように言ったこと、同時刻ころ、原告が被告加藤に午前中病欠したことを報告に行き、自席に戻ったことは認め、席に戻ったとき資料の一部が消しゴムで消されていたことは不知、その余は否認する。
訴外山添は、原告がぼんやりしていて仕事をしているとは到底思えない様子だったので、一生懸命仕事をするようにと話しただけである。
(41) 同(41)のうち、午前一〇時六分に電話が同時に三本入った時、原告が訴外近に、「出ましょうか。」と聞くと、訴外近が首を横に振って出なくてよいと合図したことは認め、その余は否認する。
(42) 同(42)のうち、午前一〇時、電話が同時に二本入った時、原告が訴外近に、「出ましょうか。」と聞くと、同人が首を横に振って出なくてよいと合図し、同三九分、原告に電話に出ることを禁止し、統計の仕事にのみ専念するように指示したこと(ただし統計業務に専念するように指示したのは訴外栗本である。)、午後三時三〇分ころ、訴外高橋明がタイプライターを使用して仕事をしていたところ、その前で原告が同様に仕事を始めたこと、間もなくして、仕事が一段落した右高橋が立ち上がり、台付タイプライターから離れたことは認め、その余は否認する。
(43) 同(43)は不知。
(44) 同(44)のうち、午前一〇時三〇分ころ、原告が訴外栗本に仮処分事件の審尋期日の出頭を出勤扱いにしてほしい旨申し出たが、認められなかったこと、原告が主張する内容の「人事だより」が掲示されたこと、その中で「今回の木原君の訴えが不実虚構、事実無根であり、……極めて遺憾であります。会社は重大な決意をもってこれに臨んでいます。」という見解を明らかにしたことは認め、その余は否認する。
被告加藤、同金井及び井上は、いずれも休暇をとって審尋期日に出頭している。
(45) 同(45)のうち、被告金井が午後二時過ぎに出社し、旅客課の掲示板を掲示されていた「人事だより」を一部小声で読んだことは認め、その余は否認する。
被告金井は、人事だよりを読んだ際、原告を意識していたわけではない。
(46) 同(46)のうち、午後五時三〇分ころ、被告井上が原告に対して注意したのを、原告が無視して帰ろうとしたので、訴外高橋明が、「ちゃんと答えなさい。」と注意したことは認め、その余は否認する。
被告井上が、原告に対して他人の出勤簿を勝手に見たことを咎め、今後そのようなことがないようにと注意した際、原告がそれを無視して帰ろうとしたので、傍にいた訴外高橋明が原告に対して「ちゃんと答えなさい。」と注意したのである。
(47) 同(47)のうち、午後五時三〇分ころ、原告が帰ろうとしたので、訴外高橋明が、「加藤さんがいないけれども、栗本さんがおられるから、部長に報告していきなさい。」と指導したこと、原告が訴外栗本に報告しないで帰社したことは認め、その余は否認する。
原告は、統計の仕事は被告加藤から個人的に頼まれたもので他の人に報告する義務はないなどという暴言を吐いているのである。
(48) 同(48)のうち、午前一一時五五分、被告リスパルが仕事中の原告の右横に立ったので原告がフランス語で「こんにちわ。」と挨拶したが、被告リスパルが挨拶しなかったことは認め、その余は否認する。
(49) 同(49)のうち、原告主張のような申し出が訴外栗本に対してあったことは認め、その余は不知。
(50) 同(50)のうち、原告主張の書類が配布されたことは認め、その余は否認する。
原告のみに配布しなかった事実はない。
(51) 同(51)は認める。
ただし、被告リスパルはニヤッと笑ったのではなく会釈したのである。
(52) 同(52)のうち、午後四時ころ、訴外高橋明が台付タイプライターの席から立ち上がり、タイプライターから離れたことは認め、その余は否認する。
(53) 同(53)は否認する。
(54) 同(54)のうち、午後一時四五分、原告が被告加藤に午前中成田赤十字病院で脳波テストを受けてきたことを報告したことは認め、その余は否認する。
(55) 同(55)は認める。
被告加藤は、原告が切符の発行を申し出てきたため、切符発行の場合その前提として取られるべき休暇届の方を先に出してからするようにと言い、切符がないと言って断ったのである。
(56) 同(56)は不知。
(57) 同(57)のうち、原告の席のところに作業机が置かれ、机上に手提げ金庫が四個積まれ、不要になったデスクマットが置いてあったことは認め、その余は否認する。
同年五月六、七日の夜に、部屋のレイアウトが行われ、七日の朝はその途中であったため、原告の机の上にも事務所内の物が積まれていたに過ぎない。
(58) 同(58)のうち、原告の机上に統計資料、書類等が置かれていたことは認め、筆記用具等がケースごと紛失していたことは不知、その余は否認する。
(59) 同(59)のうち、午後三時三〇分ころ、被告加藤が原告に対し、整備課からロッカーを運ぶから皆の手伝いをするようにと指示したこと、右ロッカーは女性の新入社員三名に専用に与えられていること、原告には専用ロッカーが与えられていないことは認め、その余は否認する。
原告を含む男子職員には専用ロッカーは与えられておらず、共用している。
(二)(1) 請求原因3(二)のうち、本文は認め(ただし、違法であるとの点は争う。)その余は否認する。
(2)<1> 配転の合理性について
希望退職者募集期間が昭和五六年四月二日に終了し、旅客課からも六名がこれに応じて退職することになり、実質的な業務活動から退いた。これを受けて、訴外畔柳、同山添及び被告加藤の三人が四月からのスケジュールを決めるにあたって話し合い、各職員の職務能力を考慮し、つまり経験の豊富な、職務能力に優れた職員から順にフライトハンドリングにあてた。
ところで、原告は、合理化計画に対して、「会社再建案はニセモノだ。」と決めつけ、他の職員に、「こんな再建案を信じるな。」「執行部は会社とグルになり、仲間の首を切るのか。」などと悪口雑言を浴びせ、「俺は断固として闘う。」などと再建に反対する言動をとっていた。それに対して他の職員が、「そういう木原君などとは一緒に働けない。」とか、「木原君がそんなに会社と組合を信じられないのなら、自分の信じられる会社を見つけて働けばよいだろう。」と反論すると、「退職強要、退職強要。」と反発していた。全職員が再建という重荷を背負って働こうとする時期に、旅客課では原告一人がそのような言動を繰り返すので、他の職員との間に大きな溝ができてしまい、次第に他の職員は原告の言動に対して大きな憤りを訴えるようになっていった。
このような状況を考慮して、原告には業務係の仕事だけでなく、広く日常業務(例えば、ホテルの請求書の整理、備品の補充や管理、コールメール等)を担当させることになったのである。
そして、原告は同年六月から遺失物係に配属されたが、ミスを繰り返して旅客とトラブルを起こすなど業務処理状況が著しく悪く、また、仕事時間中に仕事以外のことで職場を一時間近くも離れることがあったため、数週間もすると、他の職員から、原告と一緒に仕事はできないから原告を他の業務に回してくれないかという苦情が出るようなった。そこで、同係の責任者であった被告加藤は、原告を何度も注意したが、一向に改善されなかった。
このような折り、訴外栗本から、従来より営業部門から強く依頼のあった統計の件を何とか旅客部でできないかと相談があり、検討の結果、旅客課は軌道に乗ったこと、遺失物係は一人減らしても十分やっていけること、統計の仕事は旅客との接触もなく一人でできる仕事であるため、原告をこの仕事にあてれば同人が起こしている旅客や他の職員とのトラブルを解消できることから、原告にその趣旨を説明し、十分納得を得た上で同人をこれに当てたのである。
<2> 統計作業の有益性について
統計の仕事は、より一層座席占有率を高めるために、いわゆるノーショー率を知って効果的に予約を受けることと、利用客の内容分析をすることを目的とするものであり、営業活動に大変役立つものである。
そして、ノーショー率は、チェックインリストの旅客数を分母とし、最終搭乗者リストの旅客数よりゴーショー旅客(予約なしで当日突然現れて搭乗した旅客)及び無償旅客の数を引いた残りの数を分子として計算することにより算出することができ、被告加藤はそのような方法で算出するように原告に説明指示していた。ところが原告は右の方法で行っていなかった。
また、この統計結果は、営業本部に送付されるとともに被告加藤が毎月一回行われる営業会議の席で報告、説明をしていた。
(三)(1) 請求原因3(三)のうち、原告が、昭和五九年夏以降、訴外日本支社長、訴外久保田、同藤平及び同栗本らに対し、繰り返し抗議、要請等の文書を送付し、あるいは口頭で抗議、要請し続けたことは認め、その余は否認する。
(2)<1> 支店長代理その他管理職は、原告が来室して抗議する度毎に、原告を伴って旅客課事務所に同行し、その場に居合わせた職員全員を集め、原告を同席させた上、原告が主張するような暴力行為等があったか否かを質問するなどして調査している。しかし、いずれの場合も、原告が主張するような暴力行為等が行われたと判断するに足る客観的状況、証拠が何ら存在しなかったので、原告主張の暴力行為等は存在しなかったと判断していた。
<2> 被告会社は、原告が暴力行為を受けたと主張する文書を提出したり、送付したりしてきた度毎に、暴力行為なるものがなされた事実があるか否かを綿密に調査した結果、かかる原告の主張が虚偽であると判断してその旨原告に返答していた。
4(一) 請求原因4(一)は否認ないし争う。
原告の主張する事実ないし事件は、その都度の経緯や事情ないし原因があって惹起ないし発生したものであって組織的系統的なものでなく、また、それぞれの実行行為者が異なり、時間・場所・行為もそれぞれ異なっているから継続的な一個の不法行為とはいえない。
(二)(1) 請求原因4(二)(1)のうち、被告リスパルが成田空港支店長であったこと、同支店に勤務する職員に対し包括的な指揮、命令、監督権を有していたことは認め、その余は否認ないし争う。
原告が主張する事実ないし事件なるものは、コミュニケーションの行き違いや感情のもつれ等から職員間に発生したいざこざ、争いの類であり、偶発的なものであって相互に関連性も脈絡もないから、被告リスパルに民法七〇九条の不法行為は成立しない。
(2) 同4(2)は否認ないし争う。
(三)(1) 請求原因4(三)(1)は否認ないし争う。
原告が主張する暴力行為等は存在しないから、同人が主張する注意義務は存在せず、民法四一五条の債務不履行及び同法七〇九条の不法行為はいずれも成立しない。
原告が主張する事実ないし事件なるものは、コミュニケーションの行き違いや感情のもつれ等から職員間に発生したいざこざ、争いの類であり、偶発的なものであって、相互に関連性も脈絡もないから被告会社に民法七一五条一項の使用者責任は生じない。
(2) 同4(三)(2)は否認ないし争う。
(四)(1) 請求原因4(四)(1)は否認ないし争う。
(2) 同4(四)(2)は争う。
(3) 同4(四)(3)は争う。
5 請求原因5は否認ないし争う。
第三 証拠<省略>
理由
一 請求原因1ついて
1 請求原因1(一)は、原告が組合に加入した時期を除いて当事者間に争いがなく、原告が組合に加入した時期は、<書証番号略>及び原告本人尋問の結果(第一回)によれば、原告が入社した直後である昭和五〇年であると認められる。
2 請求原因1(二)の各事実は、被告金井が成田支部委員長に就任した時期を除いて当事者間に争いがなく、<書証番号略>によれば、被告金井が成田支部委員長に就任したのは昭和五六年であると認められる。
二 録音テープの証拠能力及び信用性
1 証拠能力
被告らは、録音テープ二(検証調書にて「録音テープ二」と表示した録音テープ。以職「録音テープ二」という。以下その他の録音テープについても同様に表示する。)ないし録音テープ六について、対話の相手方の同意を得ずに無断で録音されたものであるから証拠能力を有しない旨主張する。
(一) そこで検討するに、原告本人尋問の結果(第二回)及び弁論の全趣旨並びに<書証番号略>によれば、以下の事実が認められる。
(1) 原告は後記四2のとおり、昭和五六年四月初旬、旅客課の中で管理職らから退職を強要されるようになったため、それを牽制するためにテープレコーダーを職場に持ち込むようになり、テープレコーダーを訴外畔柳や被告加藤らの目の前で示したことがあったが、その後、暫くの間は目立った退職強要がなくなったのでテープレコーダーを職場に持ち込むのを止めていたところ、昭和五九年の一〇月に入ってから職場内の暴力行為等が再開したので、それを証拠化し、かつ牽制するためにテープレコーダーを再び職場に持ち込むようになった。
(2) 原告及び訴外高山哲郎(以下「訴外高山」という。)は、いずれもテープレコーダーを上着のポケットかワイシャツの胸ポケットに入れたまま、話の相手方あるいは集会参加者にテープレコーダーを示さずに、また、それを所持している旨を伝えずに、右各テープを録音した。ただ、原告は昭和五九年一〇月一五日前後に被告井上らにテープレコーダーの所持を伝えており、したがって、被告加藤らは、少なくとも同年一〇月二〇日以降の録音の際には、原告がテープレコーダーを所持している可能性があると認識していた。
してみると、いずれにしても本体各録音テープは、被告加藤ら四名あるいは職場集会参加者の同意を得ずに、無断で録音された証拠方法といえる。
(二) ところで、民事訴訟法は、いわゆる証拠能力に関しては何ら規定するところがなく、当事者が挙証の用に供する証拠方法は一般的にはすべて証拠能力を肯定すべきである。しかし、民事訴訟は私的自治の働く領域において発生した紛争を公権的に解決する手段であるから、当該証拠が、私的自治の働く領域において許されない手段すなわち著しく反社会的な方法を用いて収集されたものであるときには、それ自体違法の証価を受け、その証拠能力を否定されることになると解するのが相当である。
右認定のとおり、本件各録音テープは相手方の同意を得ないで録音されたものである。しかしながら、ここでいう相手方なる者は通常の対話の相手ではない暴力行為者であり、しかもそれが職場という密室で行われたために、これに対抗する手段として本件各録音テープの録音がなされたというのである。そのような状況下における暴力行為等を確たる証拠として残す手段としては、録音という方法が有効かつ簡単な方法であるから、録音テープの証拠能力を否定すれば相手方の違法行為を究明できないことになって、かえって正義に反する結果となる。それ故、暴力行為者たる相手方の同意を得ずにその状況を録音する行為は著しく反社会的な行為とはいえず、本件各録音テープの証拠能力を肯定すべきである。
2 信用性
さらに被告らは、原告は録音する際に、被告らが通常に執務している時に突然言いがかりをつけて挑発すれば被告らが怒り、激昂して多少過激な口調あるいは言葉を使用することになるだろうことを予想、期待した上で、言いがかりをつけ、被告らのそのような口調、言葉を録音したものであるとする。
そこで検討するに、原告本人尋問の結果(第二、四回)及び各録音テープの検証の結果(第一ないし三回)によれば、原告が昭和五九年一〇月ころ職場にテープレコーダーを持ち込むようにした目的は、一つは暴力行為等を証拠化することにあったが、もう一つは暴力行為等を牽制することにあったのであるから、孤立した状況の中で敢えて被告らを挑発して暴力行為を誘発までしてそれを証拠化する必要性はなかったことが認められる。
また、右検証の結果によれば、被告らの発言は、原告に対する、仕事とは無関係の侮辱的言辞等であって、被告らが原告に仕事を邪魔されたことに対しての発言であることを窺わせる状況は認められない。
これらの事実からすると、本件各録音テープは、被告らが主張するような状況下、即ち、原告が被告らを挑発した状況下で録音されたものではないことを前提に証明力を評価すべきものである。
三 書証の成立及び信用性
1 <書証番号略>(手帳)について
(一) 録音テープ、写真等から客観的に明らかに認められる事実と<書証番号略>の手帳の記載内容が一致すること
(1) <書証番号略>、原告本人(第一、四回)、被告加藤隆宏本人及び同井上澄郷本人の各尋問の結果、録音テープ四の検証の結果(第二、三回)によれば、昭和五九年一〇月二〇日、原告が被告井上に対し、同人の子供「緑斎」の名前を出して、被告井上の行為が子供にも劣る旨の発言をしたことに端を発して両者の間にトラブルが起きたこと、同年一一月五日、原告の机の上に絞首刑の絵と「絞死刑」と文字による落書きがあったこと、同年一一月六日、組合の職場集会において被告加藤及び訴外田中潔らが原告を職場から排除しなければならない旨の発言をしたこと、同年一二月八日の直前に原告が左大腿部打撲血腫の傷害を負ったことが認められる。
(2) そして、<書証番号略>の右の各日にちに対応する欄にそれぞれの事実に対応する内容の記載がある。すなわち、一〇月二〇日の欄には、「1455ころ「緑斎君の発言後ひどくなる、キヨ「あやまれ!」」の記載、一一月五日の欄には、「0900 机の上に絞死刑の落書きあり」の記載、一一月六日の欄には、「1600すぎ田中潔初め三役KP、KL、KIで退職強要」の記載、一二月七日の欄には、「1600~1700カトー暴力行為。回しゲリ5、6回」「帰ってくると太ももに内出血。明日は病院に行くことにする。」の記載があり、かつ、これらの記載が後からまとめて記載された形跡は認められない。
(二) 原告が普段から手帳を携帯していたこと
<書証番号略>、原告本人尋問の結果(第一回)、一一月五日の出来事を録音したものと認められる録音テープの五の検証の結果(第二、三回)によれば、原告は、この当時常日頃から<書証番号略>の手帳を携帯していたことが認められる。
(三) <書証番号略>の手帳の記載状況
<書証番号略>の手帳は、その記載事項が詳細かつ具体的であり、かつ、事件の起きた時間まで逐一記録している。また、後から作為的に書き加えられた形跡もない。
(四) 右(一)ないし(三)の事実及び原告本人尋問の結果(第一、四回)を総合すれば、原告は、昭和五九年一〇月以降、常日頃、<書証番号略>の手帳を携帯し、職場において起きた事件や事実をその度毎に、その直後ないし暫く経ってから職場の自分の机あるいは自宅において記憶のままに、その内容と時間とを逐一簡潔に記載していたものと認めることができるから、<書証番号略>は真正に成立したものと認められるし、記載内容を信用することができる。
(五) 被告らの反論について
これに対して被告らは、第一に、手帳の大きさ、文字の大きさ、下の頁に文字跡がついていないこと等から暴力行為を受けながら書いたとは考えられないと主張する。しかし、前記のように、原告は暴力行為の最中にメモをとっていたのではなく、暴力行為が止んだ後に職場の自分の机であるいは自宅で書いたものであるから、被告らの主張は当たらない。
次に被告らは、原告が手帳をつけているのを見た旅客課の職員が存在しないと主張し、<書証番号略>の被告金井の陳述書にもそれに沿う記載があるが、前記各証拠に照らして信用できない。
更に、被告らは、手帳の記載事実が、その暴力行為がなされたとする日にちの欄に記載されていなかったり、時系列的に記載されていなかったりしていることから、その都度記載したものとは認められない旨主張する。しかし、ある日にちの記載欄が書ききれなくなったとき別の空欄に書くことは不自然なことではないし、発生した事件や事実を何らかの事情で直後に書けなくて後にある程度まとめて書く場合に、時間的に後の事実を先に記載してしまうことはあり得ることであって不自然ではない。
2 <書証番号略>(メモ)について
<書証番号略>、原告本人尋問の結果(第一回)及び弁論の全趣旨によれば、昭和五九年一二月一〇日の直前ころ、被告らの原告に対する暴力行為等が頻繁に行われるようになったために、一日分の暴力行為等を手帳の該当日の欄に書ききれないケースが増え(例えば一一月二六ないし二八日、一二月七、八日)、また、このころ、原告は、被告井上などから手帳を奪われそうになったことが数回あった(<書証番号略>の記載から、少なくとも一一月五、一四日にそのような事実があったことが認められる。)ために、一二月一〇日から<書証番号略>の手帳に代えて紙片に暴力行為等を書き留めるようにしており、それを帰宅後清書したものが<書証番号略>のメモであることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
したがって、<書証番号略>のメモは、真正に成立したものと認められるし、<書証番号略>の手帳と同じく、その記載内容を信用することができる。
3 <書証番号略>(陳述書)について
原告本人尋問の結果(第一、四回)及び弁論の全趣旨によれば、本陳述書は、当庁昭和五九年(ヨ)第七一九号暴力行為等禁止仮処分事件の疎明資料として提出するために作成されたものであり、その作成日付(昭和六〇年二月七日)の直前、原告は入院していたため、原告本人が直接書いたのではなく、成田中央法律事務所事務局員と原告の義母が原告に代筆したものではあるが、右代筆は原告が下書きした陳述書を基に、殆どそのまま書き写す方法で行われたこと、原告が下書きした元の陳述書は<書証番号略>の手帳とメモ、旅客課内等の出来事を録音・撮影したテープ及び写真、並びに原告本人の記憶等に基づいて作成されていたこと、原告自身が本陳述書の記載内容を点検確認していることが認められる。
右の事実からすれば、本陳述書は、原告がその意思に基づいて作成したものであり、真正に成立したものと認められる。そして、前記のとおり、<書証番号略>の記載内容を信用することができるから、些細な事実について、手帳・メモ(<書証番号略>)に記載がないことが本陳述書に書いてあったり、あるいはその逆に、手帳・メモ(<書証番号略>)に記載のあることが本陳述書に書いてなかったり、さらに、手帳・メモ(<書証番号略>)と本陳述書の記載内容、表現が些細な点で食い違っていたりしても本陳述書の信用性が妨げられるものではない。
四 請求原因2について
1 請求原因2(一)は当事者間に争いがない。
2 請求原因2(二)について
原告が退職届を提出しなかったことは当事者間に争いがなく、<書証番号略>、原告本人尋問の結果(第一回)と<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
被告会社は、希望退職者の募集を行うにあたり、まず各部門ごとに、管理職を通じて全職員に希望退職者の募集に至った背景や日本支社の現状等を説明した上で、日本支社再建のために協力するように呼びかけ、希望退職届なる用紙をほぼ全員の職員に配布し、その提出を求めた。
そして、原告に対しては、希望退職の募集が始まった昭和五六年三月二三日、成田空港支店次長であった訴外久保田が、原告に対して合理化の必要性等を説明するとともに、仕事に対する意欲が認められないので希望退職に応じるのが一番よいと申し向けるなどして希望退職届の提出を促したのを始めとして、第一次協定期間中連日にわたり、管理職が勤務時間の内外に及んで希望退職届の提出を促した。
右説得にもかかわらず、第一次協定期間中に原告が希望退職届を提出しなかったため、第二次協定期間に入ると、同人に対する退職要求はますます強くなってゆき、募集最終日である四月二日には、管理職らが、勤務時間中、原告に対して大声で、「希望退職届を書け。」と怒鳴ったり、チョークの粉を原告の制服につけて、「誇り高い男だからつけてやったんだ。」と申し向けて同人を退職に追い込もうとした。それにもかかわらず、結局、原告は希望退職届を提出しなかった。
3 同2(三)について
指名による勇退勧告が行われなかったこと、原告が、昭和五六年四月六日から旅客課内のセクレタリアの部屋に移されたこと、同年六月九日から遺失物係に配属されたこと、同年一二月初めに統計作業を行うように指示されたことは当事者間に争いがなく、<書証番号略>、原告本人尋問の結果(第一回)と<書証番号略>及び録音テープ三の検証の結果(第二、三回)によれば以下の事実が認められ、右認定に反する<書証番号略>は採用できない。
(一) 右の希望退職者の募集により旅客課からも六名の退職者が出て、昭和五六年四月から実働職員数が減少するのに伴い、各人の職務内容が大幅に変わることになり、管理職が協議して新しいスケジュール及び人員配置が決められた。
原告については、一応形の上では業務係に配置するものの、実質的な仕事は何もさせないこととし、希望退職募集期間経過の翌日である四月三日には、訴外畔柳が原告に対して、「仕事をしなくてもよい。」と申し渡した。
同月六日には、原告は、管理職から、旅客課内の通称セクレタリアの部屋に一人だけ移るように言われ、会社再建について考えてレポートを提出するようにと指示された。原告はこれに抵抗してレポートを作成しようとはせず、通常の仕事をさせるように要求し続けたが認められず、そのような状態が約二か月間続いた。その間、管理職が中心となって、セクレタリアの部屋にいる原告に対して、部屋の電気を消したり侮辱的言辞を弄する等して、希望退職届を提出しなかったことに対するいやがらせを行った。
(二) 原告は、同年六月九日からは遺失物係に配転になりセクレタリアの部屋からは解放されたものの、同係では書類に触ることや電話に出ることも禁止され、係の責任者である被告加藤からは、「一緒に仕事できない。」などと言われ、実質的な仕事は与えられなかった。
(三) 同年一二月初めに至り、原告は統計の仕事を行うように指示され、それ以降は、昭和五九年一〇月までの間、顕著な暴力行為はなされなかった。
(四) 被告らは、原告をセクレタリアの部屋に移した理由について、原告の勤務態度が昭和五六年三月ころから特に悪くなり、業務を妨害するようになったために、再建について落ち着いて考えさせるためであったと主張する。
そこで検討すると、前記各証拠によれば、昭和五六年三月ころから、原告が管理職等に反発するようになったのは、管理職が勤務時間の内外にわたり原告に希望退職届を提出するように強要し続けたためであったことが認められる。
したがって、原告の右勤務態度につき、原告のみに責めを負わすことはできないし、しかも一時的なものであって、課の業務が正常に行われるようになれば自ずと改善される程度のものであったと見るべきであり、被告らの主張は採用できない。
五 請求原因3(一)について
1 各暴力行為等
(1) (1)(昭和五九年一〇月八日)について
<書証番号略>の各同日欄の記載、原告本人尋問の結果(第一、四回)及び弁論の全趣旨によれば、請求原因3(一)(1)の事実を認めることができ、右認定に反する<書証番号略>は採用できない。
(2) (2)(一〇月九日)について
<書証番号略>の同日欄の記載、原告本人尋問の結果(第四回)及び弁論の全趣旨によれば、請求原因3(一)(2)の事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
(3) (3)(一〇月一二日)について
<書証番号略>の各同日欄の記載、原告本人尋問の結果(第一、四回)及び弁論の全趣旨によれば、請求原因3(一)(3)の事実を認めることができ、右認定に反する<書証番号略>は採用できない。
(4) (4)(一〇月一三日)について
<書証番号略>の同日欄の記載、<書証番号略>、原告本人尋問の結果(第一、四回)及び弁論の全趣旨によれば、請求原因3(一)(4)の事実を認めることができ、右認定に反する<書証番号略>及び被告加藤隆宏本人尋問の結果は採用できない。
(5) (5)(一〇月一五日)について
<1> 被告金井が原告に対し、「ふざけるな。気違い。このやろう。バカやろう。赤ダニ。」と言ったこと、被告加藤が原告に対し、「バカ。」と言ったことは当事者間に争いがなく、<書証番号略>の各同日欄の記載、<書証番号略>、原告本人尋問の結果(第一、四回)、録音テープ二の検証の結果(第一、三回)及び弁論の全趣旨によれば、請求原因3(一)(5)の事実を認めることができ、右認定に反する<書証番号略>、被告加藤隆宏及び同井上澄郷の各本人尋問の結果は採用できない。
<2> これについて被告らは、右会話は原告が言いがかりをつけてきたことに対する抗議であり、やむを得ない発言であって侮辱的なものではないと主張する。
しかし、録音テープ二の検証の結果(第一、三回)によれば、被告加藤が「俺ここにいたけど飛んだかもしれんな。」と、原告の机の上に灰が落とされたことを前提とした発言をしていること、被告加藤及び同金井の発言は、原告を「赤ダニ」呼ばわりしており、単なる抗議の域を越えて、原告に対する人格非難ともいえるものであると認められ、言いがかりに対する抗議であるとは認められない。
(6) (6)(一〇月一七日)について
<書証番号略>の同日欄の記載及び弁論の全趣旨によれば、請求原因3(一)(6)の事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
(7) (7)(一〇月一九日)について
<1> <書証番号略>の同日欄の記載、<書証番号略>、原告本人尋問の結果(第一、四回)及び弁論の全趣旨によれば、請求原因3(一)(7)の事実を認めることができ、右認定に反する<書証番号略>及び被告井上澄郷本人尋問の結果は採用できない。
<2> これに対して被告らは、第一に、<書証番号略>の一〇月一九日の出来事が八か所にわたって飛び飛びに記載されており、その都度記載されたというには不自然であること、第二に、同書証の、「金井タバコ口にくわえたままオレの顔面におしつける」との記載は、仮処分の審尋(昭和六〇年三月一二日)の結果及び第一二回口頭弁論における原告本人尋問の結果と対比すればでたらめであることが明白であること、第三に、<書証番号略>の「井上(澄)氏が私の顔面をなぐろうとする。私の靴先を踏みつけるなどの暴力行為が続きました。」に対応する記載が<書証番号略>にはないことを指摘し、原告の主張が虚偽である旨主張する。
しかし、まず第一の点については、原告本人尋問の結果(第一回)によれば、一〇月一九日には、同日の欄に書ききれないほど多くの暴力行為等が行われたこと、一〇月一八日が公休日で同日の記載欄が空いていたこと、一〇月二二日から同月二八日まで原告は休暇を取得していたため、その期間の日にち欄に記載する可能性がないことが予めわかっていたことが認められるから、数か所に飛び飛びに記載されているからといって不自然ではない。第二の点については、被告金井がタバコの火を原告に押しつけたのか、それとも押しつけようとしたのかという些細な表現の違いに過ぎず、書証及び証言の信用性に影響を与えるものではない。第三の点については、被告らが主張するとおり、<書証番号略>の、「井上(澄)氏が私の顔面をなぐろうとする。私の靴先を踏みつけるなどの暴力行為が続きました。」に対応する記載が<書証番号略>にはないけれども、原告本人尋問の結果(第一回)及び弁論の全趣旨によれば、<書証番号略>の陳述書は<書証番号略>の手帳のみならず、原告の記憶にも基づいて記載されたものであるから、<書証番号略>に記載がないからといって原告の主張する事実が認められないわけではない。
(8) (8)(一〇月二〇日)について
<1><書証番号略>の各同日欄の記載、<書証番号略>、原告本人尋問の結果(第一、四回)、録音テープ四の検証の結果(第二、三回)及び弁論の全趣旨によれば、請求原因3(一)(8)の事実を認めることができ、右認定に反する<書証番号略>及び被告井上澄郷本人尋問の結果は採用できない。
<2> これについて被告らは、第一に、被告金井は土曜日は旅客課に立ち寄ることはない旨、第二に、次々と難癖をつけて職場を混乱させようとする原告に対する抗議であって非難ではない旨主張する。
そこで検討するに、、前記各証拠によれば、第一の点は、右録音テープ四に現に被告金井の声が記録されていること、右テープのラベルに一〇月二〇日の日付が記されていること、テープの録音内容の一部が<書証番号略>の同日欄に記載されていることが認められ、これらの事実からすれば、この日被告金井が旅客課に現れたことが認められ、第二の点は、この日の事件の発端は、被告井上が原告に物を投げつけたことにあることが認められ、被告らの主張は採用できない。
(9) (9)(一〇月二九日)について
<書証番号略>の各同日欄の記載、<書証番号略>原告本人尋問の結果(第一、四回)と<書証番号略>、録音テープ二の検証の結果(第一、三回)、被告加藤隆宏本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く。)、及び<書証番号略>によれば、請求原因3(一)(9)の事実を認めることができ、<書証番号略>、被告加藤隆宏本人尋問の結果は採用できない。
(10) (10)(一〇月三〇日)について
<1> <書証番号略>(後記措信しない部分を除く。)原告本人尋問の結果(第一、四回)と<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、請求原因3(一)(10)の事実を認めることができ、右認定に反する<書証番号略>、被告加藤隆宏本人尋問の結果は採用できない。
<2> なお、右事実のうち、この日の午後一時、原告の机上にゴミが置かれていたこと、同三時三〇分からの職場ミーティングの直前、被告加藤が原告の机上にピーナッツの殼を捨てたこと、原告がそれを写真に撮ると被告加藤が原告に体当たりしたことは、<書証番号略>には一〇月三〇日の事実としてではなく、一〇月二九日の出来事として記載されているかの様である。
しかし、前記各証拠によれば、このころ、原告の机上にゴミが捨てられているという事件があり、それが、当時原告がつけていた業務日誌に一〇月三〇日の事件として記載されていること、また、<書証番号略>の一〇月三〇日欄の記載には、この日の午後、原告が自分の机の上を写真に撮ろうとしたことがあり、原告において自分の机の上の状況を撮影して証拠化しておく必要があったことが認められる。
これらの事実を総合すれば、右各事実は一〇月三〇日に行われたものと認めることができる。
<3> これについて、被告らは、原告の机上にゴミが乱雑に置かれていたとの件は、仮処分のときに原告が提出した書証(<書証番号略>)によれば、一〇月三〇日の午後三時三〇分ころ発生したという記載になっていたにもかかわらず、本訴になって同日の午後一時の出来事と訂正されており、また、ピーナッツの殼が捨てられていたことは、<書証番号略>には一〇月二九日に起きたものとして記載されていることを指摘し、一〇月三〇日には右各事件はなかったと主張する。
なる程、<書証番号略>には被告主張のとおりの記載がある。しかしながら、前記各証拠によれば、右ピーナッツの件は<書証番号略>に一〇月二九日午後四時少し前の出来事として記載されてはいるが、記載欄が二九日の欄ではなく、三〇日の欄にはみ出て記載されていたために、原告に代わって<書証番号略>を作成した訴外高山がこれを見誤って、一〇日の午後三時三〇分の出来事として記載してしまったものと認められる。
(11) (11)(一一月五日)について
<1> 原告の机上に落書きがあったことは、その文言を除いて当事者間に争いがなく、<書証番号略>、原告本人尋問の結果(第一、四回)と<書証番号略>及び録音テープ五の検証の結果(第二、三回)によれば、請求原因3(一)(11)の事実を認めることができる。
<2> これについて、被告らは、第一に原告が本件の目撃者と主張するキャセイパシフィック航空会社職員の牧野順一がどの時点で通りかかったかについて原告本人尋問の結果と<書証番号略>の記載が食い違うこと、第二に、この日、被告井上が旅客課事務所に立ち寄っていないことを指摘し、さらに録音テープの被告井上の発言は前後の会話の関係から関連性も脈絡もなく突然現れており、テープの信用性に重大な疑いがあるとする。
しかし、第一の点は、録音テープ五の検証の結果(第二、三回)及び<書証番号略>によれば、原告が落書きの状況を一回目に撮影した後に牧野が通りかかり、その後、原告はもう一度右落書きの状況を撮影したことが認められ、そのうち、<書証番号略>には牧野が通りかかったことと二回目の撮影のことが記載され、<書証番号略>には一回目の撮影と牧野が通りかかったことが記載されているのであり、右各書証と原告本人尋問の結果が矛盾するということはない。そして、いずれにしても、落書きの事実及び被告加藤が原告に飛びかかってきた事実の認定は妨げられない。
また、第二の点については、以下の理由で被告井上が旅客課事務所に立ち寄ったことが認められ、これに反する<書証番号略>及び被告井上澄郷本人尋問の結果は採用できない。
すなわち、<書証番号略>、原告本人尋問の結果(第一、二、四回)、被告加藤隆宏本人尋問の結果(措信しない部分を除く。)及び録音テープ五の検証の結果(第二、三回)によれば、録音テープ五に被告金井の発言が記録されており、また、被告加藤が原告に対して、「カメラなんか出せ。お前。朝言ったろ。」と発言している部分があることからすれば、右テープに録音された出来事は、被告金井が旅客課に配属された昭和五九年以降のことであり、かつ、原告がカメラを持っていたことに対して被告加藤が、「朝」、注意したことがある日であると推認できる。そして、原告が昭和五九年当時、職場にカメラを持ち込んでいたのは、同年一〇月初旬から一一月初旬までであること、その間、原告が、朝写真を撮る必要があったのは、机上に落書等をされた一〇月一九日、二〇日、二九日、一一月五日であったこと、右四日間のうち一〇月一九日、二〇日、二九日は、写真を撮らなかったか、あるいは撮ったとしても被告加藤にカメラを持ち込まないように注意されたことはないことが認められ、また、一一月五日には、朝、原告が出勤すると原告の机の上に落書きがあり、原告がこれを写真に撮った際、被告加藤が原告に対してカメラを持ち込まないようにと注意したことは被告加藤の陳述書(<書証番号略>)からも認められる事実である。これらの事実を総合すると、右テープが録音されたのは昭和五九年一一月五日であることが推認できる。
そして、右テープには、被告井上と原告の会話が記録されており、しかもその内容が、被告井上がパリから帰国した直後であることを窺わせるものであることからすると、被告井上が一一月五日、パリから帰国直後、旅客課事務所に立ち寄ったことが認められる。
なお、テープに作為が加えられているとの被告らの主張については、どのような作為が加えられていると主張するのか明らかでないばかりか、前記のとおり、被告加藤の「カメラなんか出せ。お前。朝言っただろ。」という発言が被告井上の発言の合間に出てくることからすれば、被告井上の発言が一一月五日のものであることは明らかであるから、いずれにしても被告らの主張は理由がない。
(12) (12)(一一月六日)について
<1> 午後三時三〇分ころから同四時三〇分ころまで、組合成田支部の職場集会が行われたことは当事者間に争いがなく、<書証番号略>、原告本人尋問の結果(第一、四回)と<書証番号略>、証人高山哲郎の証言と<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、以下のとおり、請求原因3(一)(12)の事実が認められ、右認定に反する<書証番号略>は採用できない。
{1} この日の午後三時過ぎから行われた組合の職場集会において、原告が会社再建に取り組む組合の姿勢を問題視する発言をしたところ、被告加藤及び同金井が、各々、原告を、「一匹」「禁治産者」「ウジ虫」呼ばわりしつつ、原告を職場からたたき出さなければならない旨の発言をしたり、あるいはスローガンと称して、「木原はこの職場から出ていけ。」と大声で怒鳴ったりし、これに対して集会参加者が拍手で右被告らの発言を支援した。
{2} また、職場集会終了後、被告加藤及び同金井を含めた多数の職員が原告に対して、同人が職場集会の模様を無断で録音したテープを奪おうと、取り囲んで揉みくちゃにしたり、プラスチック製カードを投げつけたりした。
<2> これについて、被告らは、右{1}については、職場集会における被告加藤及び同金井の発言に激しいものがあるのは、会社再建に組合員が真剣に取り組んでいるにもかかわらず、原告がそれを茶化すようなことをしたためであって、やむを得ないものであるとし、また、右{2}については、原告の陳述書(<書証番号略>)記載の、田中委員長の「職場で必要ないんだよ、木原が必要だってみんな言っているか。」という発言、あるいは被告金井の、「委員長が出せというんだから出せ。」という発言がテープの反訳文(<書証番号略>)に出ていない旨指摘し、さらに、この日のことを録音したとするテープに記録されている音は、単に物と物とが擦れ合うような音であって、テープレコーダーのマイクロホン部分と原告の衣服が擦れ合う音とみるのが自然であるとする。
そこで検討するに、右{1}の点は、本件全証拠によるも、原告が会社再建のための職場集会を茶化しているものとは認められず、かえって、被告加藤及び同金井らにおいて、反対意見を述べる原告に対して、「一匹」「禁治産者」「ウジ虫」等と侮辱的言葉を投げて同人の意見を排斥し、職場から出て行けなどと怒鳴っている状況が認められる。また{2}の点は、前記三3のとおり、<書証番号略>は、録音テープのみではなく原告の記憶などにも基づいて作成されたものであるし、また、<書証番号略>記載のやりとりは、被告金井らが原告に対してテープレコーダーを提出するように迫っている場面であり、<書証番号略>記載と同じ場面であることが認められるから、<書証番号略>記載の会話内容が一言一句すべて<書証番号略>に出ていないからといって<書証番号略>の信用性が疑われるものではない。さらに、テープに記録された雑音は、そこで交されているやりとりからすれば、人と人が揉み合っている状況と認められ、マイクロホンと原告の衣服が擦れ合っている音とは認められない。
(13) (13)(一一月七日)について
<書証番号略>の同日欄の記載及び弁論の全趣旨によれば、請求原因3(一)(13)の事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
(14) (14)(一一月九日)について
<1> <書証番号略>、原告本人尋問の結果(第四回)及び弁論の全趣旨によれば、請求原因3(一)(14)の事実を認めることができる。
<2> この点について、被告らは、この日、被告加藤が原告に仕事のやり方、取り組み方について話し、さらに原告から家庭の事情等を聞いただけであると主張し、<書証番号略>及び被告加藤隆宏本人尋問の結果によればそれに沿う部分があるが、右各証拠はいずれも信用できず採用できない。
(15) (15)(一一月一〇日)について
<1> <書証番号略>、原告本人尋問の結果(第四回)及び弁論の全趣旨によれば、請求原因3(一)(15)の事実を認めることができ、右認定に反する<書証番号略>は採用できない。
<2> これについて、被告らは、第一に、旅客課事務所の電灯のスイッチが一斉に消えることはないし、第二に、この日は土曜日で、被告金井は運航搭載課勤務であり、旅客課事務所には立ち寄っていないことを指摘する。
しかし、第一の点については、右認定のとおり、電気が消えた直後に原告に体当たりした者がいることからみて、そのために何者かが意図的に電気を一斉に消したものと認められる。また、第二の点については、被告金井が土曜日でも旅客課事務所に立ち寄ることがあることは前記五1(8)認定のとおりであるから、被告らの主張は採用できない。
(16) (16)(一一月一二日)について
<書証番号略>の同日欄の記載及び弁論の全趣旨によれば、請求原因3(一)(16)の事実を認めることができ、右認定に反する<書証番号略>は採用できない。
(17) (17)(一一月一六日)について
<書証番号略>の同日欄の記載、<書証番号略>、原告本人尋問の結果(第四回)及び弁論の全趣旨によれば、請求原因3(一)(17)の事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
(18) (18)(一一月一七日)について
<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、請求原因3(一)(18)の事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
(19) (19)(一一月二〇日)について
<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、請求原因3(一)(19)の事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
(20) (20)(一一月二一日)について
<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、請求原因3(一)(20)の事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
(21) (21)(一一月二四日)について
<書証番号略>、被告井上澄郷本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く。)と<書証番号略>、原告本人尋問の結果(第一回)並びに弁論の全趣旨によれば、この日、「エールフランス山口さんを守る会」のビラ(<書証番号略>)をめぐって被告井上が原告に対して抗議をしたこと、右抗議には途中から被告加藤が加わったこと、ビラの記載内容はエールフランスの職場の内部で管理職等により暴力行為や退職強要が行われているというものであったこと、被告加藤及び同井上にとっては、職場内の暴力行為等が公にされることは具合が悪かったため、原告に対する怒りは激しいものであったこと、並びに請求原因3(一)(21)の事実を認めることができ、右認定に反する<書証番号略>及び被告井上澄郷本人尋問の結果は採用できない。
(22) (22)(一一月二六日)について
<1> <書証番号略>、原告本人尋問の結果(第一、四回)及び弁論の全趣旨によれば、請求原因3(一)(22)の事実を認めることができる。
<2> これについて、被告らは、第一に、二〇回もビンタをされるままにしているなどということはあり得ないし、それだけビンタをされれば眼鏡が飛んだり落ちたりするはずであるのにそのような事実がないこと、第二に、被告門山は原告が暴行を受けたという時間には運航搭載課で勤務をしており旅客課事務所にいなかったこと、第三に、八月一七日には数回膝蹴りをされただけで病院に行っているにもかかわらず、この日は、二〇回も膝蹴りを受けたとしながら診療所にも行っていないこと、第四に、手帳には「頭の上からゴミバケツをかぶせようとする」との記載があるが、陳述書には、「私の頭にゴミ入れをかぶせた」と記載されており矛盾があること、また、手帳の同日欄の欄外に「10…45クリ出勤……」と後日付け加えたと思われる記載があることを指摘し、原告の主張が虚偽であるとする。
そこで検討するに、第一の点は、原告本人尋問の結果(第一回)によれば、原告はビンタを受けた時、後ずさりしながら腕でよけて逃げようとしており、なされるままにしていたのではないことが認められ、何発かビンタされた時に眼鏡が飛ばなかったからといって不自然ではない。第二の点は、<書証番号略>にそれに沿う記載があるが、前記各証拠に照らして信用できない。第三の点は、原告は八月一七日に膝蹴りを受けた時に病院で治療を受けているが、前記<書証番号略>及び原告本人尋問の結果(第一回)によれば、その時の受傷は病院で治療を受けなければ治癒しないほどの怪我ではなく、その主たる目的は、診断書を書いてもらうことにより受傷の事実を証拠に残すことにあったこと、この日の怪我も病院治療を必要とするほど重大なものではなかったことが認められ、原告がこの日の受傷につき証拠化する必要性を認めずに病院に行かなかったとしても不自然なことではない。第四の点は、被告が指摘する<書証番号略>の手帳と<書証番号略>の陳述書の食い違いは些細な表現の違いに過ぎず、また、欄外の記載についても、事実関係が多少時間的に前後していても、手帳及び陳述書の信用性に影響を及ぼすものではない。
(23) (23)(一一月二七日)について
<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、請求原因3(一)(23)の事実を認めることができ、右認定に反する<書証番号略>及び被告井上澄郷本人尋問の結果は採用できない。
(24) (24)(一一月二八日)について
<書証番号略>、原告本人尋問の結果(第一回)及び弁論の全趣旨によれば、請求原因3(一)(24)の事実を認めることができ、<書証番号略>は採用できない。
(25) (25)(一二月三日)について
<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、請求原因3(一)(25)の事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
(26) (26)(一二月五日)について
<書証番号略>、原告本人尋問の結果(第一回)及び弁論の全趣旨によれば、請求原因3(一)(26)の事実を認めることができ、<書証番号略>及び被告加藤隆宏本人尋問の結果は採用できない。
(27) (27)(一二月七日)について
<書証番号略>、原告本人尋問の結果(第一回)並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、この日帰宅後、「今日は頭からゴミや灰をかけられたのですぐに風呂に入る。」と妻の木原ヨシ子(以下「訴外ヨシ子」という。)に話していたこと、その時左足が内出血しており、翌日、船橋二和病院において全治二週間を要する左大腿部打撲血腫と診断されていること、並びに請求原因3(一)(27)の事実を認めることができ、右認定に反する<書証番号略>及び被告加藤隆宏本人尋問の結果は採用できない。
(28) (28)(一二月八日)について
<書証番号略>、原告本人尋問の結果(第一回)及び弁論の全趣旨によれば、請求原因3(一)(28)の事実を認めることができ、右認定に反する<書証番号略>、被告加藤本人尋問の結果は採用できない。
(29) (29)(一二月一〇日)について
<書証番号略>、及び原告本人尋問の結果(第一回)によれば、請求原因3(一)(29)の事実を認めることができ、右認定に反する<書証番号略>及び被告加藤隆宏本人尋問の結果は採用できない。
(30) (30)(一二月一一日)について
<1> <書証番号略>及び被告加藤隆宏本人尋問の結果(いずれも後記措信できない部分を除く。)によれば、この日、原告の眼鏡が破損し、それについて原告が被告加藤に対して弁償するように抗議したこと、原告の衣服が二度にわたり汚されたこと、原告は、被告井上にコーヒーをかけられたとして、右汚された衣服のまま訴外久保田に対して二度抗議していることが認められる。右事実と<書証番号略>、原告本人尋問の結果(第一回)を合わせ総合すれば、請求原因3(一)(30)の事実を認めることができ、右認定に反する<書証番号略>及び被告加藤隆宏本人尋問の結果は採用できない。
<2> なお、原告本人尋問の結果(第一回)によれば、原告はこの当時、カメラを職場に持っていくことを止めており、コーヒーをかけられた写真がないことは不自然ではない。
(31) (31)(一二月一二日について)
<1> <書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、原告がこの日、全治二週間を要する右大腿部、頚部、左手首、右上肢打撲症の傷害を負ったことが認められる。
そして、右各証拠及び認定事実並びに<書証番号略>、原告本人尋問の結果(第一、四回)及び証人木原ヨシ子の証言によれば、請求原因3(一)(31)の事実を認めることができ、右認定に反する<書証番号略>及び被告加藤隆宏本人尋問の結果は採用できない。
<2> <書証番号略>には、左手首、右上肢打撲症の原因となる暴力行為の記載はないが、この日原告は、被告加藤、同井上及び訴外井上(晋)から数々の暴行を受けており、その暴行を一つも漏らすことなくメモすることは困難であるから、<書証番号略>に記載がないからといって、それに対応する暴力行為がなかったとは言えない。
そして、原告本人尋問の結果(第一回)によれば、右怪我は、被告井上から厚紙でできた棒状のテレックス用紙の芯でたたかれるのを防いだ際に負ったものと認められる。
(32) (32)(一二月一四日)について
<1> <書証番号略>、原告本人尋問の結果(第一回)と、被告加藤隆宏本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く。)によれば、この日、被告加藤は、同月一二日に職場及び自宅に何者かからいやがらせの電話が架かってきたことについて原告が関与しているのではないかと疑い、原告を詰問したこと、被告加藤は出勤するやいなや制服に着替える前に原告に抗議するほど右いたずら電話に怒っていたこと、原告が口腔内裂創を伴う両頬部打撲症を負ったこと、並びに請求原因3(一)(32)の事実を認めることができ、右認定に反する<書証番号略>及び被告加藤隆宏本人尋問の結果は採用できない。
<2> これについて被告らは、第一に、原告が本当に両頬部打撲の傷害を負ったというのであれば、訴外ヨシ子において原告の顎、頬の異常に気付くはずなのに気付かなかったというのは不自然であること、第二に翌一五日に原告と一緒に昼食をとった訴外常世田において、その時のことを覚えていないということは、原告が右常世田に特に記憶に残るような暴力行為の話をせず、昼食も普段どおりに食べ、変わったことは何もなかったということである旨指摘し、原告が暴力行為を受けて口の中を切ったという主張が虚偽であるとする。
しかしながら、第一の点は、<書証番号略>によれば、原告の顎、頬に腫れ等の顕著な所見は見られず、訴外ヨシ子が原告の異常に気付かなかったことも十分あり得るし、第二の点は、<書証番号略>により、原告がこの日、口腔内裂創を伴う両頬部打撲症を負ったことは明らかであるから、翌日の食事の際に暴行の話が出なかったとしても、傷害の事実はもとより暴行の事実の認定が妨げられるものではない。
(33) (33)(一二月一五日)について
<1> 原告が一二月一五日、空港クリニックにて診療を受けた後、成田赤十字病院に入院し、翌年一月一五日まで入院していたこと、同月二八日に出社したことは当事者間に争いがない。
<2> <書証番号略>の信用性
<書証番号略>、証人木原ヨシ子の証言及び原告本人尋問の結果(第一、四回)によれば、原告は、入院の翌日の一二月一六日の朝も知覚異常等があったけれども意識はしっかりとしており、前日の出来事を口述する程度のことは可能であったこと、原告はそれまで被告らに暴力行為等を受ける毎にその事実を記録に残そうと手帳等に逐一書き留めており、この日も前日の出来事を記録しておく必要があったこと、そのため、原告の右考えを十分に知っている訴外ヨシ子も、原告に口述させる程度は大丈夫であろうと思って口述させ、それを筆記したことが認められる。
このようにして作成されたのが<書証番号略>(写し)であり、これと原告本人の記憶に基づいて作成されたのが<書証番号略>であるから、<書証番号略>の記載内容は信用することができる。
<3>{1} 被告門山が午後一時五〇分ころ旅客課事務所に現れたことは当事者間に争いがなく、<書証番号略>、原告本人尋問の結果(第一、四回)と<書証番号略>、証人木原ヨシ子の証言、被告井上澄郷本人尋問の結果(後記措信できない部分を除く。)、検証の結果(第四、五回)によれば、以下の事実が認められ、右認定に反する<書証番号略>及び被告井上澄郷本人尋問の結果は採用できない。
({1}) 原告は、午後一時過ぎ、ズボンがコーヒーで汚れた状態を、キャセイパシフィック航空会社の事務所において訴外常世田に確認させ、また、空港支店長室において訴外本間及び同栗本に見せながら抗議した。また、この日原告は、病院に行かなければならないほどの怪我をしたにもかかわらず、ズボンを着替えるために一旦帰宅している。そして、翌一六日の朝には、訴外ヨシ子に被告井上からコーヒーをかけられたことを話してメモさせた。
({2}) 原告と被告井上は、午後二時ころ、原告の席の脇で、被告井上が原告にコーヒーをかけたことに関して数分間にわたって激しく口論をした。その時の原告と被告井上の位置関係及び体勢は、原告が自分の椅子の脇に、遺失物係の部屋(スペース)に背を向ける形で立ち、被告井上が原告の机の脇に原告と約一メートル隔てて向き合う形で立つという格好であった。丁度その時、被告門山が旅客課事務所の裏の出入口(原告が向いている方向からすると右斜め前方になる。)から入ってきたため、原告はそれに気付いた。そして、被告門山が、原告と被告井上の間に、「お前なんかやめてけ。」と言いながら割って入り込み、原告の襟をつかもうとしたので、原告は逃げようとしたが、被告門山は原告を追いかけて捕まえ、二、三度腰投げをかけ、両者ともに床に倒れた。そして、原告が起き上がって逃げようとすると、被告門山は再び原告を追いかけて捕まえ、腰投げをかけた。その際に原告は気を失い、気が付いたときには床に倒れていた。
その後、原告は、午後二時三〇分ころ、キャセイパシフィック航空会社の事務所に行き、訴外常世田に対して、被告門山から背負い投げか腰投げのような技をかけられて頭がふらふらする旨を訴えた。この時、原告の顔色は真っ青で足元がふらついているなど異常だったために、キャセイパシフィック航空会社の職員は只事ではないと緊張し、右常世田は被告会社の旅客課事務所に抗議に行った。
その後、原告は、成田空港内にある空港クリニックにて診療を受け、頭部外傷(後頭部打撲)と診断され、意識混濁、一過性健忘症、知覚異常等があったため、脳外科専門の科のある成田赤十字病院において診療を受けた。同病院では、当初は「頚髄損傷」と診断されたが、その後、昭和六〇年一月一八日には「頚髄振盪」と診断されて、翌年一月一六日に退院するまで同病院で治療を受け、退院後自宅療養した。
{2} 右{1}({1})({2})の事実を総合すれば、請求原因3(一)(33)の事実を認めることができる。ただし、原告が被った傷害は、頭部外傷と頚髄振盪による意識混濁、一過性健忘、右上肢、口角周囲のしびれ感、知覚異常、頭痛の症状があったという限度で認められ、本件全証拠によるも、その病名が頚髄損傷であったとは認められない。
<4> 被告らの反論について
{1} これに対して被告らは、次の事実を指摘して原告主張事実が虚偽であるとする。
すなわち、第一に、原告が被告門山から腰投げを掛けられ、気を失った経緯について、訴状においては、「腰投げをかけられて床面あるいは机などに後頭部を強く打って気を失った」と主張していたにもかかわらず、原告本人尋問の際には、被告門山に投げられて同人の腰の上に乗った時点で気を失った旨証言しており、この食い違いは後頭部を強打したというありもしない事実の説明を免れるために作り上げた事実であること。
第二に、原告は眼鏡を使用しており、腰投げされたというのであれば、これが外れて破損する可能性が高いが、そのような事実がなかったというのは、原告が被告門山と揉み合ったり腰投げされたりした事実がないことの証左であること。
第三に、当時の旅客課事務所の状況からして、原告と被告門山が大立ち回りするほどのスペースがなく、また、原告が腰投げをされたという状況と後頭部を打ったという場所及び方向が符合しないこと。
第四に、原告が旅客課事務所の裏口ドアから外へ出る時に、誰かに追いかけられるのではないかという強迫観念があったため、事務所の中を窺いながら後ろ向きに出ようとして、後頭部を右ドアの頭上に斜めに迫り出した梁にぶつけた可能性があること。
第五に、被告会社の産業医一ノ瀬正治が成田赤十字病院整形外科部長三枝修医師に面会して調査した結果によれば、レントゲン検査と通常の診察から客観的には頚髄損傷等の傷害は認められないが、原告の愁訴があったためにそれに基づいて治療し、経過観察のために入院させたに過ぎないというものであったこと。
第六に、原告は一二月一三日に自己の運転する車両を対向車に接触させるという交通事故を起こしており、仮に原告主張のような病状があったとすれば、右事故が原因であったとするのが合理的であること。
第七に、原告は病院に向かう前に自宅に立ち寄っており、原告の病状がその主張するほど重大なものであったとするには不自然であること。
第八に、訴外ヨシ子が警察や勤務先に連絡していないのは、原告の病状がその主張するほど重大なものではなかったからであること。
{2} そこで検討すると、第一の点は、前記各証拠によれば、原告に対する被告門山の暴力行為が短時間のうちに連続して行われたこと、原告は、旅客課内で孤立していたため、被告門山から何とか逃れようと逃げ回っていたことが認められる。そうであれば、一連の流れの中で行われた暴力行為の細部にわたってまで全部を正確に記憶していない方がむしろ通常であり、相手の腰の上に乗った時に気を失ったか、それとも床等に頭を打ちつけた時に気を失ったかなどということまで記憶していないからといって不自然ではない。
第二の点は、被告らの推論に過ぎず、眼鏡が破損されていないからといって被告門山による暴力行為がなかったとはいえない。
第三の点は、前記各証拠によれば、旅客課内の広さ及び机の配置からして、原告が主張するように、被告門山が原告を追いかけて腰投げを掛けることは不可能ではない。また、確かに検証の結果によると原告が腰投げをかけられたとする位置と倒れた位置が符合しないけれども、前記のように緊迫した一連の動きの中で、しかも直後に気を失った原告が、腰投げされた位置及び倒れた位置を正確に記憶しているはずはないから、同人が検証の際に指示説明した位置はおおよそのものに過ぎず、したがって、検証時の指示説明と原告の主張が細部において食い違っていることを捉えて原告の主張が虚偽であるとすることはできない。
第四の点は、原告の怪我の程度の重さからすれば到底考えられないことであり、被告らの推論に過ぎず、採用できない。
第五の点は、原告の負った怪我が頚髄損傷であったと認めることはできないが、原告に意識混濁、一過性健忘、右上肢・口角周囲のしびれ感、知覚異常、頭痛の症状があったことは前記五1(33)<3>{2}認定のとおりであり、右認定に反する<書証番号略>は原告を実際に診察した医師の作成にかかるものではないから採用できない。
第六の点は、<書証番号略>、並びに原告本人尋問の結果(第一回)によれば、原告が同年一二月一三日に起こした自動車事故は原告の車の右側面を僅かに接触させた程度のものであり、現に警察も物損事故扱いにしていること、原告が一二月一四日に空港クリニックにて診療を受けた際には頭部の痛みを訴えていないことが認められる。これらの事実からすれば、原告の怪我が右事故に基づくものではないことが明らかであり、右認定に反する<書証番号略>は採用できない。
第七の点は、前記各証拠によれば、原告は意識混濁の状態にあったものの、人に付き添われて空港クリニックに歩いて行くことができる状態であり、また、原告自身成田赤十字病院にて治療を受けて帰宅する心算であったところ、同病院に行ってはじめて入院を勧められて入院することになるなど、原告自身自分の怪我の重大性に気付いていなかったというに過ぎず、原告が病院に向かう前に自宅に立ち寄ったことをもって原告の怪我が軽度であったということはできない。
第八の点は、被告らの推論であって、これをもって原告の怪我が軽度であったということはできない。
(34) (34)(昭和六〇年一月二八日)について
訴外山添が、頚椎カラーを着用して出社した原告に対し、旅客課内において、「そんなみっともないかっこうをしなければならないのなら休んだら。」という趣旨の発言をしたことは当事者間に争いがない。
これについて、被告らは、原告が頚椎カラーをした上にネクタイを窮屈そうにして、いやいやながらすると言わんばかりに統計の仕事をしていたために、それほどまでに体の調子が悪いのであれば、もう少しよくなるまで休めるように訴外栗本に話してみたらどうかという趣旨で発言したものであるとする。
そこで検討すると、一か月以上も怪我で会社を休んだ原告に対して、「みっともないかっこう」という発言をすることは不穏当であるし、また<書証番号略>、原告本人尋問の結果(第一回)によれば、同人の体を気づかう旅客課の職員はおらず、被告らが主張するように訴外山添が原告の体をいたわって発言したものではなく、「会社に出てくるな。」という趣旨で言ったものと認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
(35) (35)(一月二九日)について
<書証番号略>の同日欄によれば、請求原因3(一)(35)の事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
(36) (36)(二月一日)について
原告が机の中から資料が紛失している旨を訴外栗本に申し出たため、同人が原告に対してよく調べるようにと言ったことは当事者間に争いがなく、<書証番号略>によれば請求原因3(一)(36)の事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
(37) (37)(二月二日)について
訴外山添が旅客課に来たことは当事者間に争いがなく、<書証番号略>によれば請求原因3(一)(37)の事実を認めることができ、右認定に反する<書証番号略>は採用できない。
(38) (38)(二月五日)について
<書証番号略>によれば請求原因3(一)(38)の事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
(39) (39)(二月九日)について
訴外近が原告に対し、「しばしば手洗いに行くようだが腎臓でも悪いのではないか。」と言ったことは当事者間に争いがなく、<書証番号略>によれば請求原因3(一)(39)の事実を認めることができ、右認定に反する<書証番号略>は採用できない。
これに対して被告らは、訴外近が原告に対して仕事中頻繁に離席することについて注意したところ、原告が「トイレだから仕方がないだろう。」と食ってかかってきたためにそのような発言になった旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。
(40) (40)(二月一三日)について
<1> 原告の机上の資料の一部が消しゴムで消されていたこと及び被告金井と訴外山添の発言態様を除いて、概ね当事者間に争いがなく、<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば請求原因3(一)(40)の事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
<2> これについて被告らは、被告金井及び訴外山添は原告に対して仕事上の指示ないし注意をしたものであると主張する。
しかしながら、前記各証拠によれば、被告金井及び訴外山添の原告に対する言い方は、「もっと上の者に言え。病院へは自分の休みに行け。気違い。」「真面目に仕事をする気になったか。心を改めたか。」などというものであり、被告らが主張するような指示または注意とは異なるものであったことが認められる。また、訴外山添が原告に注意した際、原告がぼんやりして仕事をしていなかったことを認めるに足りる証拠はない。
(41) (41)(二月一五日)について
この日の午前一〇時六分、電話が三本同時に入った時に、原告が訴外近に「出ましょうか。」と聞くと、同人が首を横に振って出なくてよいと合図したことは当事者間に争いがない。
また、<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば被告リスパルが旅客課事務所に来て、原告の脇に立ち、「どけ。」と言って、同人の机の引き出しを引いて中身を点検し、その際、原告が被告リスパルが見落した引き出しを開けて、「満足しましたか。」と言ったところ、被告金井が原告の右行為を失礼だと咎めたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
(42) (42)(二月二二日)について
午前一〇時、電話が同時に二本入ったとき、原告が訴外近に「出ましょうか。」と聞くと、同人は首を横に振って出なくてよいと合図したこと、同三九分、訴外近が原告に電話に出ることを禁止したこと、午後三時三〇分ころ、訴外高橋明が台付きタイプライターを使用して仕事をしていたところ、その前で原告が同様に仕事を始めたこと、間もなくして、高橋が立ち上がって台付きタイプライターから離れたことは当事者間に争いがなく、<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、請求原因3(一)(42)の事実を認めることができ、右認定に反する<書証番号略>は採用できない。
(43) (43)(二月二五日)について
<書証番号略>によれば、請求原因3(1)(43)の事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
(44) (44)(三月六日)について
請求原因3(1)(44)の事実のうち、被告会社日本支社総務本部より、原告が主張する内容の「人事だより」が掲示されたことは当事者間に争いがないが、その余の事実はこれを認めるに足りる証拠がない。
(45) (45)(三月八日)について
<書証番号略>によれば、請求原因3(一)(45)の事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
(46) (46)(三月九日)について
午後五時三〇分ころ、被告井上が原告に話しかけた際、訴外高橋明が原告に対して、被告井上に応答するようにとの趣旨の発言をしたことは当事者間に争いがなく、<書証番号略>によれば請求原因3(一)(46)の事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
(47) (47)(三月一一日)について
訴外高橋明が、午後五時三〇分ころ、帰宅しようとしている原告に対して、仕事の結果について訴外栗本に報告するようにとの趣旨の発言をしたことは当事者間に争いがなく、<書証番号略>、原告本人尋問の結果(第一回)及び録音テープ六の検証の結果(第二、三回)によれば、請求原因3(一)(47)の事実を認めることができ、右認定に反する<書証番号略>は採用しない。
(48) (48)(三月一八日)について
この日、被告リスパルが仕事中の原告の右横に立った際、原告がフランス語で、「こんにちわ。」と挨拶したが、被告リスパルが返事をしなかったことは当事者間に争いがない。
被告リスパルが原告を睨んだとの点は、<書証番号略>にその旨の発言があるが、睨まれたかどうかは多分に原告の主観によるのであり、原告が当時置かれていた状況からして、被告リスパルに返事をしてもらえずに注視されたことをそのように感じて記載したものに過ぎないものと推察される。
(49) (49)(三月二〇日)について
原告が訴外栗本に対して、原告の机の中がいじられたり、統計資料の一部が別の引き出しに移動させられていたり、書類の留め金が折られていたとして抗議したことは当事者間に争いがなく、<書証番号略>によれば、請求原因3(一)(49)の事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
(50) (50)(三月二二日)について
原告が主張する内容の書類が配布された事実は当事者間に争いがない。しかし、<書証番号略>によるも、右書類が原告以外の全員に配布されたことまでを原告が確認しているとは認められず、他に、原告のみに配布されなかったことを認めるに足りる証拠はない。
(51) (51)(三月二五日)について
請求原因3(一)(51)の事実は、被告リスパルがニヤッと笑ったことを除いて当事者間に争いがない。
また、被告リスパルがニヤッと笑ったか否かは多分に原告の主観によるものである。
(52) (52)(三月二六日)について
午後四時ころ、訴外高橋明が台付きタイプライターの席から立ち上がり、タイプライターから離れたことは当事者間に争いがなく、<書証番号略>によれば、請求原因3(一)(52)の事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
(53) (53)(四月五日)について
<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、請求原因3(一)(53)の事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
(54) (54)(四月六日)について
午後一時四五分、原告が被告加藤に午前中成田赤十字病院で脳波テストを受けてきたことを報告したことは当事者間に争いがなく、<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、請求原因3(一)(54)の事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
(55) (55)(四月七日)について
請求原因3(一)(55)の事実は当事者間に争いがない。
(56) (56)(五月四日)について
<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、請求原因3(一)(56)の事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
(57) (57)(五月七日)について
原告の席のところに作業机が置かれ、机上に手提げ金庫が四個積まれ、不要になったデスクマットが置かれていたことは当事者間に争いがなく、<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、請求原因3(一)(57)の事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
(58) (58)(五月八日)について
原告の机上に統計資料、書類が置かれていたことは当事者間に争いがなく、<書証番号略>の同日欄の記載及び弁論の全趣旨によれば、請求原因3(一)(58)の事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
(59) (59)(五月一一日)について
午後三時三〇分ころ、被告加藤が原告に対し、整備課からロッカーを運ぶから皆の手伝いをするようにと指示したこと、原告に専用ロッカーが与えられていないことは当事者間に争いがなく、<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、請求原因3(一)(59)の事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
2 右(1)ないし(59)の各事実の検討
(一) 1(1)ないし(59)の事実の中には、人が社会生活を営む中で、あるいは職務を遂行する過程で、他人と接触することにより不可避的に生じる摩擦ないしトラブルといった類のもので、社会人として当然に受忍すべく、当該事実だけを取り上げれば違法な行為とは言えないものも含まれている。
しかしながら、そのような事実であっても、行為のなされた状況、行為者の意図、他者との共謀関係等によっては違法な行為となり得るものと解するのが相当である。
(1) これを本件についてみると、(1)ないし(33)の事実については、各暴力行為等の行為者及び態様並びに前記四認定の事実(本件違法行為に至る背景)に照らせば、かつて昭和五六年ころ、被告会社の職員が原告を退職に追い込む目的で暴力行為を加えるなどした背景の下に、被告加藤ら四名が明示または黙示に共謀し、あるいは、それを察した被告会社の他の職員が行った、職場における集団による原告に対する陰湿ないじめないしいやがらせとしての暴力行為等と認められるから、そこに含まれる事実は全体として一つの違法な行為として不法行為を構成するものというべきである。
(2) これに対して、(34)ないし(59)の事実については、それ以前の事実とは対照的に、行為者が被告加藤ら四名以外の者であるものが多く、また、その態様として有形力の行使が殆どなされていない。また、<書証番号略>によれば、原告は、被告らを相手方として、昭和五五年二月一五日以降、同年内に、暴力行為の禁止等を求める仮処分を当裁判所に申請しており、被告加藤ら四名が共謀し、あるいは他の職員に指示して暴力行為をさせることが困難な状況にあったことが認められる。
これらの事実を総合すれば、(34)ないし(59)の各事実は、いずれも、各行為者において原告を好ましく思っていない心情が背後にあったとしても、共謀の上で行われたものとは認められず、それぞれ個別の事情に基づいて発生したトラブルまたはいざこざというべきものと認められる。
したがって、(34)ないし(59)の各事実は、いずれも、個人間の言い争い、いやみ、いたずらの類のものというべきであるから、違法行為と認めることはできない。
(二) なお、(1)ないし(33)の各事実のうち、机上の落書き((7)、(8)、(11)、(14)、(17)、(19)、(23))、資料等の散乱、紛失、その他のいたずら((7)、(8)、(9))、机または椅子が汚される等したこと((10)、(11)、(13)、(18)、(23))、椅子にピン等を立てられたこと((18)、(22))は、いずれも、原告が退社して翌朝出勤するまでの間、原告が昼休みに席を外している間、あるいは、その他の事情で原告が一寸席を外した間に起きたものである。そして、弁論の全趣旨によれば、被告会社の職員以外の者が、原告が席を外した間に旅客課事務所に侵入して右各行為をすることは著しく困難であるし、そのようなことをする動機も認められない。したがって、右各行為は、すべて旅客課職員を中心とした被告会社の職員が行ったものであると認められる。
六 請求原因3(二)について
1 原告が、昭和五六年三月以降、それまで従事していた接遇関係の仕事を変更され、同年一二月初めから本件期間中を含めて現在に至るまで、上司である被告加藤の直接の指示のもと、統計作業に従事してきたことは当事者間に争いがない。
2 原告の職務内容変更の合理性について
(一) 統計作業の有用性
(1) ノーショー率の算出方法
<1> <書証番号略>、原告本人尋問の結果(第一、四回)及び被告加藤隆宏本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く。)によれば、以下の事実が認められ、右認定に反する<書証番号略>、被告加藤隆宏本人尋問の結果は採用できない。
成田空港からの予約者のノーショー率は、ノーショー客の数を同空港からの真の搭乗予約者数で除して算出すべきであるところ、原告が本件期間中に行っていた方法は、最終搭乗者リスト上の乗客数を予約者リストの乗客数で除して算出するというものであった。そして、右予約者リストには架空人が含まれており、逆に、予約しているにもかかわらず予約者リストに載らない客(かくし客)が存在し、さらに、大阪で予約した形になっている団体客が東京と大阪から分かれて搭乗する場合、東京からの搭乗者が予約者リストには表れない処理が行われ(アールボーディング)ていたため、予約者リストは成田空港からの真の搭乗予約者を表しておらず、また、最終搭乗者リストには、予約しないで突然入り込んで来る客(ゴーショー客)が含まれていた。そのため、右の架空人、かくし客、アールボーディグの処理、ゴーショー客の各存在及び数を知らなければ、予約者リストと最終搭乗者リストだけからは、成田空港からの真の予約者数及びノーショー客の数を把握することはできず、ノーショー率を算出することはできない。
それにもかかわらず、原告は、右架空人、かくし客、アールボーディングの処理、ゴーショー客の各存在及び数が知らされていなかったため、成田空港からの真の搭乗予約者の数及びノーショー客の数を把握することができず、ノーショー率を算出することはできなかった。
<2> この点被告らは、ノーショー率を出すには、チェックインリストの旅客数を分母とし、最終搭乗者リストの旅客数よりゴーショー旅客や無償旅客の数を引いた残りの数を分子として計算することにより算出可能であり、また、被告加藤はそのように原告に説明指示したのに原告が指示どおり行っていなかった旨主張する。
そこで検討すると、前記のとおり、ノーショー率は、ノーショー客の数を成田空港からの真の搭乗予約者数で除して算出すべきであって、被告らが主張する方法ではノーショー率を算出することはできないばかりか、被告らが主張する計算方法の基となるゴーショー旅客や無償旅客の存在及び数が原告に知らされていなかったため、いずれにしても原告が与えられた情報からノーショー率を算出することはできなかった。
また、前記各証拠によれば、原告は、被告加藤に統計結果をその都度報告していること、被告加藤は統計作業を指示した当初、原告が指示どおり処理しているかどうかを点検して確認した上で行わせていること、原告がノーショー率としては明らかにおかしい一〇〇パーセントを越える数値を被告加藤に報告した際にも、同人は原告に何の指示もしていないことが認められる。これらの事実を総合すると、原告が行っていた方法は被告加藤が指示したとおりであったことが認められる。なお、この点、被告らの主張によれば、原告が指示どおり行っていなかったにもかかわらず、被告加藤は数年間にわたりこれに気付かないまま営業会議の場で報告していたということになり、不自然である。
(2) 旅客課における統計作業
<書証番号略>、原告本人尋問の結果(第一、四回)及び被告加藤隆宏本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く。)によれば以下の事実が認められ、右認定に反する被告加藤隆宏本人尋問の結果は採用できない。
<1> ノーショー率を知るには、真の搭乗予約者とノーショー客の両者の把握が必要であるところ、架空人及びかくし客等を考慮した真の搭乗予約者についてはもともと予約課において把握しており、また、ノーショー客についても予約課において、旅客課から送られてくる最終搭乗者リストを基に把握し、それをコンピューターを使用して調査していた。
<2> 旅客課において、各フライト直後に、原告が行っていた統計の基になる資料をパリの本社及び日本支社営業管理課に送り、右営業管理課において、乗り継ぎ客に関する情報、有償乗客と無償乗客との区別に関する情報等をコンピューター処理し、その処理結果を再度旅客課に送り戻していたため、旅客課では原告の統計作業を待つまでもなく、フライト直後に右各情報についての正確な資料を容易に作成できた。
右<1>及び<2>によれば、旅客課において統計作業を行わなければならない理由は特に存しなかった。
(3) 原告の行った統計の結果の活用
右(1)認定のとおり、原告の行っていた方法ではノーショー率が出ないにもかかわらず、原告本人尋問の結果(第一、四回)及び被告加藤隆宏本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く。)によれば、原告が統計作業を始めてから約三年後にあたる本件期間中までその方法が改善されないままに行われてきたことが認められる。これと右(2)認定のとおり、統計作業を旅客課において行う必要がなかったことを合わせ総合すると、原告が行ってきた統計の結果は有効活用されていなかったものと推認できる。
被告らは、原告の行った統計の結果を営業管理課に送っていた旨主張する。しかしながら、原告本人尋問の結果(第一、四回)及び被告加藤隆宏本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く。)によれば、確かに、原告の行った統計の結果が営業管理課に送られていた事実は認められるが、それはフライトの数か月も経過した後であることが認められ、また、右(2)認定のとおり、原告の統計の基になる資料を旅客課から営業管理課にフライト直後に送っていたことからすれば、原告の統計結果が営業管理課において有効活用されていたものとは認められない。
右の認定に反する被告加藤隆宏本人尋問の結果は採用できない。
(4) その他の事情
原告本人尋問の結果(第一、四回)及び被告加藤隆宏本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告が、昭和五九年一二月一六日から同六〇年一月二七日まで、怪我の治療のために一か月以上も休暇を取っている間、旅客課の職員で原告に代わって統計の仕事を行った者はいないし、また、その間、旅客課において統計作業に関する事務等について原告に問い合わせ等を行っていないことが認められる。
(5) (1)ないし(4)の事実を総合すれば、被告会社にとって、原告が本件期間中行っていた統計作業が有用なものであったかどうか疑わしい。
(二) 原告の納得の有無
被告らは、原告の納得を得た上で原告を統計の仕事につけた旨主張するので検討すると、なる程、<書証番号略>、原告本人尋問の結果(第一、四回)及び被告加藤隆宏本人尋問の結果によれば、原告は統計作業を行うにつき、自ら被告加藤に対して統計フォームの書式を考案し、提案していることが認められ、原告自身、統計作業を行うについて一応納得しているかの様である。
しかしながら、<書証番号略>、原告本人尋問の結果(第一、四回)及び弁論の全趣旨によれば、原告は被告加藤から統計の仕事をするように指示される際、その目的及び結果の利用方法について教えられていなかったこと、原告は、統計作業に従事するようになってから日勤になり、シフト手当等が支給されなくなったこと等から、被告リスパルに対してシフト勤務に戻すように要求していたことが認められる。また、前記四3(二)認定のとおり、原告は、統計作業を行うように指示される直前まで約半年間遺失物係に配属されていたものの、そこでは実質的な仕事を与えられなかったため、統計作業にどのような意味があるかわからないものの、とりあえず仕事をさせてもらえるという期待の下に統計の仕事を引き受け、原告なりに工夫して書式を考案したものと認めるのが相当である。したがって、原告が統計の仕事をするについて真に納得していたと認めることはできない。
右認定に反する<書証番号略>は採用できない。
(三) 統計作業の単純性
<書証番号略>、原告本人尋問の結果(第一、四回)及び被告加藤隆宏本人尋問の結果(措信しない部分を除く。)によれば、原告が入社以来昭和五六年三月まで約八年間従事していた仕事は、空港運輸の事務に関する専門的な知識、技能、経験を要するものであったのに対して、統計作業の仕事はコンピューター処理された到着者、予約者、最終搭乗者の各リストを各統計用紙(<書証番号略>)に書き写して集計するという単純作業であること、パソコン等の利用により短時間に、かつ正確な処理ができるものであることが認められる。
(四) 原告の職務能力
被告らは、昭和五六年三月の合理化の際、原告と他の職員との間に溝ができたために原告には業務係の仕事と日常業務を担当させることとし、また、同年六月から配置した遺失物係においては、原告の職務能力が劣っていたために統計の仕事をさせることにしたとして配転の合理性を主張する。そして、<書証番号略>及び被告加藤隆宏本人尋問の結果によれば、原告は、昭和五六年六月から配属された遺失物係において、ミスを繰り返して旅客とトラブルを起こすなど、業務処理能力が著しく悪く、注意しても改善されず、そのために一人でもできる統計の仕事に原告を回せばトラブルを解消できるために配転した旨の記載及び供述がある。
そこで検討すると、<書証番号略>並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、昭和五六年以降は査定昇給されていないのと対照的に、昭和五六年以前に接遇関係の仕事をしている間には、数度、査定昇給が行われており、その職務能力が著しく劣っていたとは評価されていなかったこと、昭和五六年三月の合理化の際、原告と他の職員との間に溝ができた事実はないこと、原告は遺失物係に配属された初日から同係の責任者である被告加藤はじめ他の職員から疎んじられ、仕事も与えられていなかったため、被告らが主張するように旅客との間でトラブルが起きることはなかったことが認められ、右認定に反する<書証番号略>及び被告加藤隆宏本人尋問の結果は採用できず、他に被告らが主張する事実を認めるに足りる証拠はない。
(五) 右(一)ないし(四)の事実を総合すれば、原告の職務内容を変更して同人を統計作業に従事させたことに合理的理由は認められない。
3 右のとおり、職務内容変更に合理的理由がないことと、原告が統計作業に従事させられるようになった経過(前記四3)を合わせ考慮すれば、右職務内容の変更は、原告を退職に追い込むという不当な動機、目的の下に行われた仕事差別であると推認することができ、これにより原告は、約七か月間(統計作業を命じられてから本件口頭弁論終結までの期間としては約一一年間)にわたり、有用性に疑問のある統計作業に従事させられた。
したがって、右職務内容の変更は、管理職である被告加藤が旅客課において命じたものであるところ、これは労務指揮に名を借りて、原告が仕事を通じて自己の精神的・肉体的能力を発展させ、ひいては人格を発展させる重要な可能性を奪うものであり、かつ、原告にことさら屈辱感を与え、原告の仕事に対する誇りと名誉等の人格権を侵害した違法な行為として、暴力行為等とは別の不法行為を構成するものというべきである。
七 請求原因3(三)について
1 原告が、昭和五九年夏以降、度々、訴外日本支社長、同久保田、同藤平及び同栗本らに対し、被告加藤ら四名から暴力行為を受けたとして抗議したり、その旨の文書を提出、送付したりしたことは当事者間に争いがない。
2 被告会社の関与
被告会社が、本件期間中、同社職員をして、原告に対し、積極的に暴力行為等及び仕事差別を行わせていたこと、あるいは、同社職員が原告に対して暴力行為等及び仕事差別を行っていることを知りまたは知り得たことを認めるに足りる的確な証拠はない。
3 被告リスパルの関与
(一) 暴力行為等について
被告リスパルが、成田空港支店の職員をして、原告に対し、積極的に暴力行為等を行わせ、あるいは、成田空港支店の職員が原告に対して暴力行為等を行っていることを知りまたは知り得たことを認めるに足りる的確な証拠はない。
(二) 仕事差別について
被告リスパルは、本件期間中、成田空港支店の職員に対して包括的に指揮、命令、監督権限を有していた(この点は争いのない事実)のであるから、統計作業の内容及びその意義、すなわち統計作業が原告を退職に追い込む目的で行われていたことを少なくとも知り得たものと認められる。
八 請求原因4について
1 被告加藤ら四名の責任
被告加藤ら四名は、前記五1認定のとおり、本件期間中、原告に対してそれぞれ暴力行為等を加えた。そのうち(1)ないし(33)の事実については、前記五2(一)のとおり、全体として一つの違法行為ということができるから、これについて不法行為が成立し、右四名は、民法七一九条一項前段に基づき共同不法行為責任を負担する。
これに対して被告らは、これらの事件ないし事実は、その都度の経緯や事情ないし原因があって惹起ないし発生したものであり、組織的系統的なものではなく、また、それぞれの実行行為者が異なり、時間、場所、行為も異なるから継続的な一個の不法行為とはいえない旨主張する。
確かに各暴力行為等の実行行為者はその都度異なるし、また、各事件ないし事実の直接のきっかけも同じではない。しかしながら、本件暴力行為等の大半は勤務時間中に旅客課事務所内で行われたものであるし、また五2(一)(1)のとおり、いずれも、昭和五六年ころ被告会社の職員が原告を退職に追い込む目的で暴力行為を加えるなどした背景の下に、しかも、被告加藤ら四名が明示又は黙示の共謀の下に、あるいはそれを察した被告会社職員が行ったものであるから、それぞれ実行行為者及びきっかけが異なるとしても、各々別個の不法行為が成立するのではなく、全体として一個の不法行為が成立すると解される。
2 被告リスパルの責任
前記七のとおり、被告リスパルは、少なくとも仕事差別を知り得たのであり、それにもかかわらず、何ら対処しなかったことは、同人の成田空港支店長たる立場に照らせば違法ということができ、この点についてのみ民法七〇九条の不法行為が成立する。
3 被告会社の責任
(一) 暴力行為について
前記七2のとおり、被告加藤ら四名をはじめとする被告会社職員が原告に対して行った暴力行為等は、被告会社が積極的に行わせ、あるいは被告会社においてこれを知りまたは知り得る状況にあったにもかかわらず放置したものとは認められないから、被告会社に民法四一五条の債務不履行責任または同法七〇九条の不法行為責任は生じない。
しかしながら、前記のとおり、被告加藤ら四名及び原告に暴力行為等を加えたその他の被告会社職員には民法七〇九条の不法行為が成立し、それらの暴力行為等は、就業時間中に、就業場所で行われたものであるから、被告加藤ら四名及びその他の被告会社職員がその職務を行うにつき行ったものということができ、被告会社は民法七一五条一項の使用者責任を負担する。
(二) 仕事差別について
前記七2のとおり、統計作業は被告会社が積極的に行わせ、あるいは被告会社においてそれを知りまたは知り得る状況にあったにもかかわらず放置したものとは認められないから、被告会社に民法七〇九条の不法行為責任は生じない。
しかしながら、前記六1及び七3(二)のとおり、統計作業は、被告加藤が原告に指示して行わせ、また、被告リスパルはこれを少なくとも知り得たのであるから、右両名に民法七〇九条の不法行為が成立し、また、右統計作業の指示は被告会社の業務として行われたものであるから、被告会社は民法七一五条一項の使用者責任を負担する。
4 被告ら相互の責任関係
右のとおりであるから、暴力行為等については、被告加藤ら四名は民法七一九条一項前段に基づいて連帯して損害賠償責任を負い、また、被告会社の責任は民法七一五条一項の使用者責任であり、使用者は被用者と連帯して責任を負うから、結局、被告加藤ら四名と被告会社が連帯して損害賠償責任を負担する。
仕事差別については、被告会社の責任は、被告リスパル及び同加藤の不法行為責任についての使用者責任であるから、被告会社と同リスパルは連帯して損害賠償責任を負担する。
九 損害
1 慰謝料
原告は、職場内で孤立させられ、いわれのない暴力行為や仕事差別などを長期間にわたって受け続けたのであり、その肉体的・精神的苦痛は十分に察することができる。
そして、以上の認定事実によれば、原告が被告らの不法行為によって被った精神的損害は、被告らが行った暴力行為等及び仕事差別の目的及び態様、その期間の長さ、本件期間後から口頭弁論終結に至るまでの被告らの対応、原告に責めに帰すべき事由が特にないこと、その他本件訴訟に表れた一切の事情を勘案して、暴力行為等に対するものとして金二〇〇万円、仕事差別に対するものとして金一〇〇万円をもって慰謝するのを相当とする。
2 弁護士費用
原告は本訴の提起、追行を原告代理人らに委任したものであるところ、本訴の提起、追行が専門的知識を有する弁護士の関与を要することは明らかであるから、右委任に伴う相当程度の弁護士費用の出捐は、被告らの不法行為と相当因果関係のある損害と認められ、本件の諸事情を考慮すると、右弁護士費用は金三〇万円と認めるのが相当である。
一〇 結論
以上の事実によれば、被告会社、同加藤、同金井、同井上及び同門山は、原告に対し、連帯して、金二三〇万円及びこれに対する、被告会社は訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和六〇年八月一〇日から、被告金井、同井上、同門山は同じく同月八日から、被告加藤は同じく同月一四日から、いずれも支払い済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務、並びに被告会社及び同リスパルは、原告に対し、連帯して、金一〇〇万円及びこれに対する、原告の請求が拡張された口頭弁論期日の翌日である平成五年一月二八日から支払済みまで同割合による遅延損害金を支払う義務があるので、原告の本訴請求を右の範囲内で認容し、その余の請求は失当であるからこれをいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条、九二条但書、九三条一項本文、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 野崎薫子 裁判官 中根紀裕 裁判長裁判官 仙波英躬は、転補につき署名押印をすることができない。裁判官 野崎薫子)